廃墟に魅せられる若者たち 「時代の香り」とは何か

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<テレビウォッチ>長崎から船で1時間の洋上に浮かぶ端島(はしま)。形から軍艦島と呼ばれるこの島を、遊覧船が訪れるようになって1年になる。7万人が訪れたが、多くは若者だ。目当ては巨大な廃墟になっている島そのものだ。

経済効果は15億円

   かつて300世帯5000人が住み、高度成長を支えた炭坑の島だった。マンモスアパートは9階建て、700人の児童がいた学校も7階建てだ。コンクリートの列柱にはペルトコンベアがあって、24時間石炭を運び出していた。

   石油時代になった昭和30(1955)年代に閉山となって以後、住む人もなく年月を重ねて来た。いまは島全体が荒れ果てたコンクリートのかたまり、まさにSFの世界である。ここになぜ若者が?

「異様な光景だった。海上にアパートが建っていて」「みんな生きるために働いていた。すごいな」「人々の絆があった。いいなぁと思ったり」

   かつてここの住人で、写真を撮り続けている大橋弘(63)は、「彼らを引きつけるのは時代の香りだ」という。「活気があって明るくて、人間関係は濃密だが、緩やかで心の余裕があった。いま、それがないから」

   長崎市は、新たな観光施設と位置づけている。「経済効果は15億から16億円。予想をはるかに超えた」と担当者はいう。

   こうした廃墟の旅が人気だという。明治から戦後の高度成長期まで、日本の近代化、工業化を支えてきた炭坑、製錬所、鉄道、発電所などが、時代の変化で打ち捨てられたものだ。全国で数千か所といわれる。

廃墟を美術館に

   瀬戸内海の大久野島(広島)、尾去沢鉱山(秋田)、別子銅山(愛媛)などいくつかは公開へ動いている。また、単に観光のためではなく、産業遺産、文化遺産として記録しようというNPOもできた。一方で、修復、維持・管理ができないと取り壊されるものも多い。

   こうした廃墟を積極的に活用しようという試みもあった。通信販売会社が作った直島福武美術館財団は、瀬戸内海の島々の自然を生かした美術拠点を作っている。まず直島(香川)の自然をそのままに、地下に美術館を作った。そして2年前、隣の犬島(岡山)にある明治期の銅の製錬所の廃墟を美術館に作り替えた。レンガ造りのと現代アートとの組み合わせに、年間1万5000人が訪れる。これで地元の意識も変わった。

   犬島はいま人口55人だが、そのひとり75歳の次田智恵子は、参観者に昔の思い出話を語るガイドを勤めて、若い人たちから好評だ。礼状や年賀状も来るようになった。「この歳になって、こんなことができるなんて」

   国立科学博物館の清水慶一参事は、「非常にスマートに、うまくいっている例だ。おばあさんがしゃべるというのは、遺産の伝え方の基本だと思う」という。

   また「私は団塊の世代だが、安定した時代に育った世代は感じ方が違う。彼らは昔のものに立ち返ることができるようだ」ともいった。

   清水参事は、手近でおすすめの廃墟として、碓氷峠の鉄道橋(群馬)をあげていた。実は数年前訪れたことがある。橋からトンネルへの入り口に立ったとき、かつて走っていたアプト式の鉄道が浮かんだ。

   むろん列車で何度も通ったことがある。長い年月続いた人間の営みを思って、訳もなく肌が粟立った。しかし、それを知らない若い人たちの目には、どう映るんだろう。話を聞きながら、若者に聞いてみたくなった。

ヤンヤン

NHKクローズアップ現代(2010年4月12日放送)
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