容疑者の家族追い詰める 日本社会「平成の5人組」意識

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<テレビウォッチ> 社会の片隅で身を隠すようにひっそり暮らす犯罪加害者の家族たち。

   その『痛み』をさらに殴打するようなインターネットの残酷な書き込み。そうした犯罪加害者の家族たちの苦悩を見て見ぬふりの社会。そんな隠微な社会に今、光が差し込み始めている。

犯罪加害者家族の実態

   今回のクローズアップ現代は、仙台の市民団体が初めて行った全国規模の『犯罪加害者家族実態調査』を取り上げた。

   犯罪加害者の家族、親族というだけで、一家離散、子どもは転校、自殺者まで出ている苦悩の実態。どうして日本社会は『弱者』と分かるとこうも冷たいのか。

   責任はマスコミの取材のあり方にもある。そこを敢えて取り上げたNHKに敬意を表したい。では、マスコミとしてどんな解決策があるのか。マスコミを代表してNHK自ら宿題を課した形だ……

   実態調査を行ったのは仙台市内にある市民団体『ワールド・オープン・ハート』(WOH) と言い、阿部恭子代表が昨2009年8月立ち上げた。

   メンバーは、精神保健福祉士、刑事事件を扱う弁護士、精神看護学の専門家などだ。

   阿部代表が設立の動機を次のように語る。

「大学院で犯罪被害者の家族支援について研究していたところ、ある事件の加害者家族が自殺したことを知った。これがきっかけで加害者家族の実態を知りたいと、この活動を始めた」

   犯罪加害者の100家族に呼びかけた結果、34家族から回答が得られたという。それによると……

   『安心して話せる人がいない』67%、『被害者や遺族への対応に悩んだ』63%、『報道にショックを受けた』58%。

   ただし、この設問に対する答えだけでは、複雑で深刻な家族の悩みはあまり伝わってこない。

   WOHでは、毎月1回、家族たちと不安や悩みを話し合う『場』を設けている。その『場』では家族たちの苦悩の実態が……

報道陣が自宅に

   番組ではその1例として、社会を揺るがすような事件でなくとも犯罪家族が追い詰められるケースを取り上げた。

   知人とのトラブルで相手を殺害し、服役中の夫を持つ妻によると、一人息子と3人暮らしだった夫は穏やかな性格で、殺人を犯すなど想像すらしなかったという。

   「そこへある日警察から電話があり、『あと、3時間で逮捕状が出る。報道されると思うから自宅周囲は人でいっぱいになる。子どもがかわいそうなので、家を離れて下さい』といわれた。慌てて子どもを知人に預け、自分は勤め先に身を隠した」という。

   案の定このあと、テレビの報道番組でよく見かけるシーンがそのまま再現されたようだ。

   『近所の人の話』を取るために自宅周辺の取材が展開され、『写真が欲しい』と近所の子どもにまで取材の矛先が……

   この時から自宅周辺の人たちの冷たい視線を感じるようになったが、見知らぬ人たちからの嫌がらせも始まり、赤い字で『殺人者の家』と落書きされた。

   加えて、小学校2年生の息子は事件発生いらい休学させていたが、学校から遠回しに転校を促されたという。

   妻が転校の手続きのため学校に電話連絡した際、学校が大好きだった息子のある願いを学校に伝えた。「皆にさよならを言いたいので1度登校させて欲しい」と。

   しかし,学校からは「フォローする自信がないので遠慮してほしい」と断られた。「子どもは何も言わず泣いていた」という。

   その息子が転校直前のある日の深夜、学校に行きたいと言い出した。連れて行くと、息子は1人で校庭を30分ほど走り回ったすえ、「もう大丈夫。皆にお別れをしたから……」と言ったという。

   涙が出てくる話だが、妻はさらにもう1度転校をさせたという。事件を知る人たちから息子を少しでも遠ざけるために……。

   キャスターの国谷裕子が「なぜ犯罪を犯したわけでもない家族にまで批判の矛先が向けられるのでしょうかね」と。

   長年、被害者の家族支援を行ってきた常磐大の諸澤英道教授は次のように言う。

「日本に限らずアジアの近隣国も似たようなもので、犯罪は家族や組織、地域が生みだすという考えが強い。政府はそれを家族や地域職場が犯罪を出さないように利用してきた面がある。それをしっかり根付かせてしまった」

   政府が利用したというより、犯罪の防止、告発、連帯責任を負担させるためにお上が作った組織がむしろ根底にあるのではなかろうか。

   律令制の五保を模したといわれる江戸時代の5人組、太平洋戦争中に設けられた隣組。制度はなくなったが、意識だけは定着し残っているのでは……

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2010年4月7日放送)
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