渡辺謙の「大人の恋」 それは優しさ故?卑怯だから?

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遠まわりの雨>日本テレビの山田太一ドラマスペシャル。大人の恋、耐えるというか忍ぶというか、そういうもどかしいゆったりしたドラマだ。

昔の恋人に…

   渡辺謙演じる主人公は、若い頃町工場で働いていた。夏川結衣を巡り恋のさや当てがあったのだが、夏川は渡辺をふって工場の跡取り息子、岸谷五朗と結婚する。それを機に渡辺は別の場所へ移って新しい生活を始める。それから20年。町工場へ航空エンジンを巡る特別の発注があったころ、社長の岸谷は病で倒れる。そこで夏川が渡辺を訪れ、工場を助けてほしいと頼みに来る。

   渡辺は頼みを引き受け、かつての職人芸でなんとか切り抜けようとするのだが、結局は工場の若手社員でコンピュータに詳しい人間が「正解」にたどり着く。職人のワザが負けたわけだ。その間、渡辺と夏川は恋心を秘めつつ微妙な間合いを保ち、優しさからか、はたまた現状を維持したい卑怯さからか、一線は越えられずにいる。結局2人の間には何も起こらない。描かれたのは、人は悩みながら成長していく、という姿だ。2人だけでなく、渡辺の妻役の田中美佐子、娘役の川島海荷も悩みつつ前へ進んでいる。

   ちょっとした会話の中に大切なことを盛り込んでおり、山田太一ワールドは健在だ。とはいえ、個人的には退屈してしまった部分もある。渡辺の演技が素晴らしく、ついつい最後まで見てしまったが、主役が彼でなければチャンネルを変えてしまったかもしれない。すごい芝居で彼なくしてはこのドラマは成立しなかっただろう。

   筋としても、職人ワザがコンピュータに負けてしまうという展開は悲しすぎる。日本の文化は手の文化で、手でつくり上げるワザを重視してきた。職人ワザは、町工場の技術を支え、町工場の頑張りが日本産業を発展させてきた側面もある。職人ワザはコンピュータに負けちゃいかん。不満が残った。とはいえ、渡辺の演技には本当に魅せられた。

   視聴率は、21時から2時間強で13.4%。こうしたしっかりしたドラマを見る人がこれだけいるということは、テレビもまだまだ捨てたものではない。水増しバラエティとは違うぞ、という存在感があった。

      太一風 焼けぼっくいに 火をつけて
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