上野昂志のジャンル別必見12本! (8)シェルブールの雨傘

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シェルブールの雨傘 デジタルリマスター版(2枚組) DVD発売中\4935(税込) 発売・販売元:ハピネット (C)Cine-Tamaris photo(C)Agnes Varda
シェルブールの雨傘 デジタルリマスター版(2枚組) DVD発売中4935円(税込) 発売・販売元:ハピネット 

   ラブ・ロマンス2本目は、『シェルブールの雨傘』(ジャック・ドゥミ監督 1964年)

   この映画を見ていない人でも、ミシェル・ルグラン作曲の甘く切ない主題歌は、どこかで耳にしているのではないだろうか。実際、これは、主題歌だけでなく、全編、ミシェル・ルグランの作曲になるミュージカルなのだが、そこには若い男女の切ない恋愛とともに、人生の歓びや苦さが歌い上げられているのだ。

   まず、シェルブールの街の石畳に落ちる雨を俯瞰で捉えた画面に、色とりどりの雨傘が行き交うタイトルバックの美しさに目を奪われる。とにかく、この映画では、雨傘だけでなく、カトリーヌ・ドヌーブが着ている服や、部屋の壁紙の色彩がとても鮮やかで美しいのだ。

   全体は3部に別れ、それぞれ「出発」「不在」「帰還」となっているが、それは傘店の娘・カトリーヌ・ドヌーブの恋人で自動車修理工場で働く青年(ニーノ・カステルヌオーヴォ)が辿る運命を表している。すなわち、娘の母親の反対にもかかわらず、相思相愛の2人が、結婚を誓い合いながら、青年は、アルジェリアでの兵役につくために出発し、彼の子を宿した娘は、その不在のために、別の誠実な男と結婚してしまう……というようにである。

   その意味では、きわめてストレートな恋愛劇でもあるのだが、それがたんなるメロドラマで終わらないのは、第3部の「帰還」が、甘い恋と切ない別れを描いた第1部と見事な対照をなしているからだ。とりわけ、最後の、雪のクリスマスの夜に、かつての恋人同士が偶然の再会をする場面は味わい深い。

   と同時に、1957年11月から始まった物語が、男が帰還する59年を経て、63年12月で閉じられている意味を見落としてはならない。ここには、54年に始まったアルジェリアのフランスからの独立戦争が、泥沼に陥った57、8年から、ようやく終結に向かう時期を表しているからだ。ジャック・ドゥミは、恋人たちの別離の背景にアルジェリア戦争があったことを、さり気なく示しているのである。

映画評論家 上野昂志

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日本ジャーナリスト専門学校
通称ジャナ専。東京都豊島区高田にあるマスコミの専門学校。1974年の開校以来、マスコミ各界へ多くの人材を供給し続けている。

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