映画とラブ・ロマンスは切っても切れない関係にある。アクション映画であれ、男女が出てくれば、そこに、なにがしかラブ・ロマンスの香りが漂うことで、彩りが華やかになる。そこで今週は、正統派(!?)とは、ひと味違う、ラブ・ロマンスの傑作を2本。
まずは、『めまい』(アルフレッド・ヒッチコック監督 1958年)。
え、これって、ミステリーではないの? という声が聞こえそうだが、原作はむろん、そうだ。だが、これはむしろ、想いが凝って妄執と化した恋のサスペンスを描いた、極めつけの作品である。
とにかく、キム・ノヴァクが素晴らしく魅力的なのだ。最初に、ジェームズ・スチュアート扮する高所恐怖症で退職した刑事の前に姿を見せる瞬間、見る者を魅了する。だから、不可解な行動をとる彼女を、気づかれぬように追っていく主人公が、知らず知らずのうちに惹かれていくのも当然だ。
グレーの上品なスーツが、裕福な家の妻らしい美しさを引き立てるかと思えば、サンフランシスコ湾に飛び込んだ彼女が、男の自宅で介抱されたときには、さらに官能的な輝きを帯びていくのである。
そんな彼女が、修道院の塔に駆け上がっていくのを、めまいによって追い切れず、彼女の投身を止められなかったことが、男を絶望の淵に落とすのは必然であろう。以来、男は、彼女の幻を追って街を彷徨するのだが、ある日、髪の色も、着ている服もまったく違うにもかかわらず、彼女とそっくりな女と出会う。
そこから、男は、幻の恋人を再現しようという妄執に取り憑かれていくのだが……それは恋愛における、もっとも危険なフェティシズムにほかならぬ以上、彼が真実に目覚めると同時に悲劇が訪れるのは必定であった。
映画評論家 上野昂志