<テレビウォッチ> 卒業式といえばかつては、恨みもつのる暴力教師を前にして、我が師の恩はありがたやなどと心にもないことを歌わされ、悔し涙を流しながら、学校なるものの本質をあらためて納得するという修行じみたイベントだった。
「3月9日」
ところが、最近は卒業式ぐらいは、そういうあからさまなことはやめようとする糊塗的な風潮があるようで、歌までも民主的にさまがわり。最近の1番人気はレミオロメンの「3月9日」(卒業式の日)だそうな。
その「3月9日」を題名に持ってきたのが今回の放送「『3月9日』 卒業ソングに託す思い」である。このたいして上手くも、おもしろくもない日付けの歌がなぜ1番好まれるのか――を番組は分析してくれるようであった。
さて、フタを開けると、番組は浜松の高校を訪れていた。就職難のご時世、卒業間際まで就職が決まらない高校生の就活を取材していたのである。しかし、その伝え方のありがちなこと、新味のないことはオドロキなほど。そのオドロキのなさをどう伝えるかは悩ましく筆舌に尽くしがたいため、筆者もひとつ天下のNHKを見習って、その努力を怠ることとしたい。閑話休題。卒業式も近づくなかで、あるひとつの重大な事実が判明したのである。就活中の生徒が「3月9日」をよく聴いていたのだ。彼は「自分はひとりじゃなく、多くの人に支えられてる」といった趣旨の歌詞に励まされているとのことだった。
答えは、励ましてくれる歌だから――。クローズアップ現代にもいろんな回があるが、これほど安直だなあ思えるものもそうはないだろう。
そのVTR後のスタジオでは、ゲストの作家、あさのあつこ(児童小説「バッテリー」の著者)と国谷裕子キャスターが、ギリギリで就職が決まった生徒たちの「笑顔」のすばらしさなどを語り合っていた。
ボンド柳生
*NHKクローズアップ現代(2010年3月9日放送)