これから6週にわたって、映画ファンなら、これ見なきゃ話にならないよ! という映画を、ジャンル別に12本挙げます。なかには、いまさら言われなくったって、もう見てるよ、というのもあるかもしれませんが、だとすれば、あなたはもう立派な映画ファン!
画面にみなぎる緊張感
という次第で、まずはアクション映画。アクション映画というと、銃弾が飛び交い、車がぶっとび、ビルが爆発するような映画を思い浮かべるかもしれないが、それはVFX満載の映画に毒された見方といえよう。
アクション本来の意味からすれば、キモは、動くことにある。どんな小さな動きでも、画面に緊張感がみなぎる、というのがアクション映画の醍醐味なのだ。その点、安易にCGに頼る最近の映画は、なんでもできちゃうから、逆にスリルを感じなくなるという欠点がある。
そこで、アクション映画の古典を2本挙げよう。今回の1本目は、『戦艦ポチョムキン』(セルゲイ・エイゼンシュタイン監督・1925年)。
オデッサの階段
これは、ロシア革命に先駆するポチョムキン号の叛乱を描いているので、革命を鼓舞する映画と思われているが、そんな意味づけは無用。アクション映画として、素晴らしいのだ。サイレントではあるが、艦内の機械や水兵たちの動きから、そこに響いているはずの物音が聞こえてくる。ここで、とくに注視してもらいたいのは、グラフィックな画面構成だ。そして、銃殺を目前にした水兵たちがついに立ち上がり、叛乱に至るアクション。
だが、極めつきは、死んだ水兵を悼む群衆がオデッサの階段を登っていくと、突如、現れたコサック兵が、群衆に向けて無差別な銃撃を開始する場面だ。背中を撃たれた母親の手を離れた乳母車が、赤ん坊を乗せたまま階段を転がり落ちていく。はじめは緩やかな動きが急テンポに変わっていく、その呼吸。
これは、オデッサの階段シーンとして、その後の映画に何度も引用されている。また、これを見たハリウッドのプロデューサーは、この監督を、アメリカに連れてこいといったという。
映画評論家 上野昂志