(C)2010「ゴールデンスランバー」製作委員会
<ゴールデンスランバー>『アヒルと鴨のコインロッカー』、『フィッシュストーリー』に次ぐ伊坂幸太郎原作、中村義洋監督作品の第3弾。主演に迎えるのは『ジェネラル・ルージュの凱旋』、『ジャージの二人』の中村監督作品に出演した堺雅人。音楽は『フィッシュストーリー』でも担当した斉藤和義。息の合ったメンバーで伊坂幸太郎の異色作の映画化に挑んだ。
必死の逃亡劇
史上初、野党から日本国首相となった金田首相の凱旋パレードが行われている仙台でラジコンヘリ爆弾を使った首相暗殺事件が発生する。
爆発の少し前、青柳雅春(堺雅人)は大学時代の友人森田森吾(吉岡秀隆)に呼び出され、パレードルート付近に駐車した車の中で眠っていた。目覚めた青柳に鬼気迫るようすで森田は告白する。知らない男から借金の帳消しを引き換えに青柳をここで眠らせておけと言われたと。
パレードの爆発が起こり、森田は青柳を車の外に出すと、銃を構えた警官が青柳を追いかけてくる。わけも分からず逃げる青柳。そして、今度は森田を乗せた車が爆発する。
青柳はすぐさま首相暗殺犯人として指名手配され、日本国中から追われる身になってしまう。人々が青柳を犯人と決め付ける中で、大学時代の友人で元恋人、樋口晴子(竹内結子)と後輩カズ(劇団ひとり)などに支えられながら青柳は必死の逃亡劇を続ける。
キャスティングは成功
まず、キャスティングが見事だ。最近はバラエティ番組等でもネタにされることの堺雅人の常に半笑いの表情も、首相暗殺犯人に仕立て上げられるというストーリーに信憑性が増すほど怪しげに映る。
また、『アヒルと鴨のコインロッカー』、『フィッシュストーリー』から続いて出演している濱田岳も良かった。キルオ、という通り魔殺人犯という難しい役どころだったが、鼻にかけたねっとりとした声色で演じ、子供らしさと、凶悪殺人というミスマッチが独特の不気味さを醸し出していた。それだけにキルオという人物の役割が映画全体を通して効いてこなかったのが残念だ。
キャスティングを含めストーリーやセリフに至るまで原作の世界観を忠実に再現している。そこは伊坂原作の映画を過去にも作ってきたチームだけあって、原作ファンには満足できる映画になっているのではないか。
しかし、小説から離れて1本の映画として考えたとき、どこか物足りなさを感じてしまう。あまりにも原作の要素を詰め込み過ぎて、1000枚ほどの原稿用紙の小説の内容をそのままコンパクトにしたという印象を受けてしまった。プロット作りの段階から、もう少し原作と切り離して映画ならではの要素を付け足して欲しかった。
野崎芳史
オススメ度:☆☆☆