(C)2010「おとうと」製作委員会
<おとうと>吟子(吉永小百合)は東京で亡き夫の残した小さな薬局を地道に営みながら、1人娘の小春(蒼井優)を育ててきた。一方、大阪で暮らす弟の鉄郎(笑福亭鶴瓶)は、旅役者と称して定職にもつかず、酒癖の悪さから親戚の鼻つまみ者。ここ何年かは音信不通で、どこにいるのかさえわからない。
吉永小百合も役にぴったり
そんな鉄郎が小春の結婚式に突然、姿を現した。しかしそこでも悪酔いをして、大失態をおかしてしまう。吟子の心配をよそに、分が悪くなるとすぐに逃げ出す鉄郎だったが、まもなくして病に倒れ・・・・・・。
悔しいくらいに、笑福亭鶴瓶の演技がすばらしい。山村の医師の姿を描いた『ディア・ドクター』に続くはまり役、周囲の迷惑もかえりみず無茶し放題だが、姉を気づかうやさしさと憎めないユーモアがある鉄郎役を見事に演じきっている。今回も彼の演技を1度観てしまうと、彼以上に鉄郎役が似合う役者はそうそう思いつかない。
また、吉永小百合も普段は物静かながら、芯の強い吟子のキャラクターがぴったりとはまっている。さらに主演2人の脇を固める俳優陣の熱演も、笑いあり涙ありで、見事にこの作品を盛りたてている。
受容のひと言
堅実に生きてきた姉と、どうしようもないごんたくれで、浮浪者寸前の生活をしている弟、そして2人を見守り続ける娘、姑、世話焼きな下町の人々、鉄郎を引き取る民間ホスピスのスタッフたち、この映画に登場するあらゆる人々の人生が、観ている私たちの人生とどこか重なる。
とくにラストのシーンは、吟子ら家族の目を通して人の無力さを突きつけられる。民間ホスピスのスタッフ(石田ゆり子)が発する、「受容」のひと言がとても印象的だった。
また、そういった人間ドラマの一方で、静かに流れる言葉のない、なにげない日常の風景が度々さしこまれていたのもよかった。四季の移り変わりを感じさせる吟子の家の庭先や、薬局のガラスドア越しに見える通行人の人間模様、通天閣を望む大阪のドヤ街の朝、たんたんと紡がれる時間の流れが、物語の余韻をしみじみと味わうのにとても有効だった。
久々にもう1度観たいと思える、とても力を持ったすばらしい作品だ。
バード
オススメ度:☆☆☆☆☆