受容のひと言
堅実に生きてきた姉と、どうしようもないごんたくれで、浮浪者寸前の生活をしている弟、そして2人を見守り続ける娘、姑、世話焼きな下町の人々、鉄郎を引き取る民間ホスピスのスタッフたち、この映画に登場するあらゆる人々の人生が、観ている私たちの人生とどこか重なる。
とくにラストのシーンは、吟子ら家族の目を通して人の無力さを突きつけられる。民間ホスピスのスタッフ(石田ゆり子)が発する、「受容」のひと言がとても印象的だった。
また、そういった人間ドラマの一方で、静かに流れる言葉のない、なにげない日常の風景が度々さしこまれていたのもよかった。四季の移り変わりを感じさせる吟子の家の庭先や、薬局のガラスドア越しに見える通行人の人間模様、通天閣を望む大阪のドヤ街の朝、たんたんと紡がれる時間の流れが、物語の余韻をしみじみと味わうのにとても有効だった。
久々にもう1度観たいと思える、とても力を持ったすばらしい作品だ。
バード
オススメ度:☆☆☆☆☆