圧巻の内面描写
この構成に観客は、どこからが現実でどこからが服部の「願望の妄想」なのか戸惑うことになるかもしれない。自主映画作品に多く見られるような奇をてらっただけのあざとさは見受けられない。が、張り詰める緊張感に包まれた現実世界に対して、妄想世界は脚本上の組み立ての「アイデア」だけが宙に浮いてしまっている感じがした。それを心配してなのか、ラストに「説明」が用意されているが、それも取って付けた感が否めない。
ただしこの作品の見るべき部分は「内面描写」にある。次々と身に起こるやりきれない出来事により、田村の精神は、触れるだけで切れてしまいそうなほど危ういものになっていく。その「緊張感」を田村が街を歩いているだけで観客にひしひしと伝えてしまう術などは圧巻であり、音響や過剰なアクションなどに頼ることもせず、あくまで脚本の力により表しているのは映画の骨の太さに繋がっていく。咽元にナイフをあてられているようなゾクゾク感こそがこの作品のハイライトであろう。
川端龍介
オススメ度:☆☆☆