<テレビウォッチ>長野7位、ソルトレイクシティー6位、トリノ5位――フリースタイル女子モーグル、上村愛子のオリンピックでの成績だ。毎回、注目されながらメダルに届かない――番組は、バンクーバーで悲願のメダル獲得を目指す彼女の4年間を追う。
意外な練習法
ジャッジ競技であるモーグルの採点は、ターン、エア(2回のジャンプ)、タイムの3つの要素で行われる。ターン50%、残り2つが25%ずつ。上村の課題は、トリノで点数が伸びなかったターンだった。コース上に互い違いに並ぶコブを直線に近いラインで滑り降りられればタイムも短縮できる。この技術を高めることがメダルへの近道なのだ。
上村には、ソルトレイクシティー五輪の金メダリスト、ヤンネ・ラテラが2006年9月、日本代表モーグルチームのコーチになったことが幸いした。彼の武器であるカービングターンは世界のお手本といわれていた。スキー板のたわみと傾きによってコブを巧みに越え、スピードを落とさずに滑り降りる。この技術を習得できればメダルを取れる。
ヤンネの教えは意外なものだった。「五輪でメダルを取るには地道な練習を続けるしかない」と言う彼は、上村に、コブのない簡単なコースを繰り返し滑らせる。板の中心で力をかけ続けるカービングターンの感覚を体に覚え込ませるためだ。
フィジカル面では筋肉トレーニングに力を入れる。脚を自在に動かすためには腰周りの筋肉をつける必要があったからだ。腰周りは3年間で4.4センチ大きくなったという。
さらに越えなければならないカベがあった。恐怖の克服だ。時速40キロに迫るスピードで30度近い斜面を前傾姿勢で滑って行かなければならない。日本代表モーグルチームの高野弥寸志ヘッドコーチは「テクニック以前に恐怖感そのもの」と話す。上村は「恐怖の先にすごいものがある」と、ひたすらコブに挑み、技術を磨く。
「メダルは堅い」理由
こうした3年の努力は09年3月の世界選手権で花開く。日本人初の優勝を飾ったのだ。順風満帆かに見えた。が、オリンピックへの助走ともいえる12月からのW杯で思わぬ苦境に立たされる。初戦こそ2位だったが、2戦目予選落ち、3戦目14位。ストレスの増す成績だ。ターンの採点傾向が変わったことが響いたらしい。昨シーズンまで重視されていたカービングターンの配分が低下し、ほかの要素と均等になったのである。
「審判の目を意識するあまり自分の滑りを見失っていた」(ナレーション)ようだ。
4戦目、上村はある決断を下す。カービングターンを得意とする男子選手が高得点を出すコースを選択したのだ。結果は持ち前のスピードが戻って2位。納得できる滑りで手応えをつかんだという。
スタジオゲストの三浦豪太(長野五輪モーグル代表)は「一時的な迷いがあったかもしれないけど自信を取り戻したかのように見える。技術では世界トップレベルにあるので、(コースの)上から下まで自分の滑りが出来ればメダルは堅い」と結んだ。
番組では触れていないが、上村と09年6月結婚したアルペンスキーの皆川賢太郎もバンクーバー五輪に出場する。2人とも好成績を収めるよう祈りたい。
アレマ
* NHKクローズアップ現代(2010年2月4日放送)