(C)2009「板尾創路の脱獄王」製作委員会
<板尾創路の脱獄王>『空中庭園』『大日本人』『空気人形』などに出演し、役者として高い評価を受けるお笑い芸人板尾創路の初監督作品。時代設定は昭和初期。信州第2刑務所に収容された鈴木(板尾創路)は脱獄を図り、刑務所から逃亡するが、線路沿いで捕まってしまう。
土地に秘密が
再度機会を見計らい脱獄をするが、またもや呆気なく捕まってしまう。移送された刑務所や収容所でも鈴木は脱獄を繰り返しては捕まっていく。果たして彼が脱獄を繰り返すワケとは……
「脱獄」というテーマを貫き、その他の描写を削ぎ落とした94分間のテンポが格別に良いので「脱獄の繰り返し」という単純な展開でも飽きさせない。そこにシュール且つ硬派な演出が混じり合い板尾監督の狙いが浮き彫りになっていく。
脱獄と収容を繰り返し、どこまで正気沙汰なのかが解からない鈴木の立ち振る舞いこそが、この映画そのものであり、お笑い芸人板尾創路そのものであろう(時代設定を大胆に無視し、冷たくどんよりとした暗い監獄の中で『ふれあい』が流れるシーンなどは真骨頂)。この映画は常に謎に包まれている。
「謎の脱獄」の果てに辿り着いた土地に、彼が脱獄を繰り返した理由が隠されており、謎めいた各プロットが徐々に結びついていき、映画はいよいよクライマックスへと向かっていく。
お笑い芸人の演技力にも注目
そしてラスト……は、緊張感やそれまで構築されたあらゆる要素を吹き飛ばしてしまう作りになっており、笑いの世界では「ベタ」な手法だが、映画では奇天烈だ。ただ観る者の期待の裏切り方の気持ちよさを認め、降参するように笑ってしまった。謎に包まれた映画のラストとしては、必然の破天荒ぶりだったのかもしれない。
数々のお笑い芸人が出演しているのも見所で、非凡な演技力を披露してくれる芸人も何人かいるが、石坂浩二と國村隼の本格派俳優の好演こそが、風変わりな作品の中で解かりやすいほどに光った。
川端龍介
オススメ度:☆☆☆