<テレビウォッチ> 番組収録後、「勝新太郎さんの話なんだけどね」とある方がこんな話を始めた。
「勝さんは2種類の芝居をしろって言ってたんだよね。1つは舞台用ともう1つは映像用の……」
言葉の芝居と目の芝居
番組も撮り終えてホっと一息ついた時、出演者からこんな風に話を聞ける機会が私は大好きだ。今回も耳をそばだてた。
なんでも、勝さんには『言葉の芝居』と『目の芝居』の2種類があったという。
『言葉の芝居』は舞台、『目の芝居』は映像作品用だ。親分が子分に指示をする際のシーンを例にしてみよう。
舞台では、会場内全ての観客に意図が分かるように、「黙れ! さっさと向こうへ行ってこいよ」と台詞で言う。ところが同じシーンでも映像では、ギロっと相手を睨んで視線の先を変えるだけ。こうすれば意図も伝わり迫力あるシーンになるというわけだ。
しかし、これも今や昔の話。テレビドラマは視聴率と視聴者に応じ、ずいぶんと脚本が変わった。まずひとつは、視聴率が取れる時間帯に合わせてクライマックスを持ってくる作り方。以前にも書いたが、『またぎ』に合わせて物語のキーとなる場面転換や山場を設定する方法だ。
さらに、台詞そのものにも変化は表れている。最近はドラマの台詞に、登場人物の名前や肩書きが入っていることにお気づきだろうか?
例えば、職場で男2人が言い争っている場面で考えてみよう。
男A(ニヤリとしながら)「そんなこと言ってもできないんだよ!」
男B「いや、やるしかないんだ!(相手の目を見つめて)お前なら出来るだろ」
昔はこんな感じ。では、最近のドラマでは……
男A「加藤、いくら同期の頼みだからって、そんなこと言ってもできないんだよ! わらっちまうよ」
男B「いや、やるしかないんだ! 鈴木、お前なら出来るとオレは信じている」
と、こうなるワケである。台詞で2人の名前と関係性、さらには心理まで丁寧に説明する。これには2つの理由があり、途中から見てストーリーが掴めない視聴者がチャンネルを変えるのを防止する策と、感情を台詞にすることで状況をより分かりやすく視聴者に伝えるためだ。
だが、現場では少々評判がよろしくないらしい。「視聴率のためにそこまでやるのか? 作品性よりも視聴率を取るのか?」と芸歴の長い俳優陣や演出陣からクレームが上がるという。そこでプロデューサーは、今の視聴者にはそのほうが親切でチャンネル離れを食い止められると説得するそうだ。
ちなみにカメラワークも今は俳優たちのアップやバストショットが多く俳優の表情を視聴者がより読み取りやすいように工夫されている。
先週始まったTBS「特上カバチ」はそのわかりやすい例だろう。登場人物の心の声をテロップ出しした手法は視聴者にどう受け止められたのだろうか?
初回視聴率は快調とは言えなかったが、今後の数字が気になるところだ。せめてでも、新たな試みに挑戦する制作サイドの意欲だけは視聴者に伝わってほしいものだ。
モジョっこ