<テレビウォッチ>『パイロット不在』のなか、着地点を求め迷走し続けあわや失速か? と見られていたJAL がようやく『不時着』に成功した。
東京地裁に会社更生法の適用を申請し、『企業再生支援機構』の支援で3年以内の経営再建を目指す。
私的整理を模索
それにしても8000億円を超える債務超過に陥り燃料(資金繰り)が空っぽなのに、なぜ迷走を続けたのか。番組は経営再建を巡り迷走を続けた舞台裏の攻防を追った。
そこから透けて見えたのは、相変わらず親方日の丸に依存する「甘えの構造」。体制を整え再離陸できるかどうか、これからが本番だが……
「本来なら清算するような会社……自民党政権で先送りされ続けてきたJALの体質改善というものを、政権交代を機に本気で成し遂げるためにはどういう形がいいか……」
就任早々からJAL再建の先導役となった前原国交相がかつてこう語った。
そのJAL 再建で対立の構図が浮き彫りになったのは昨2009年末。
番組によると、政府からJAL再建策を託された企業再生支援機構が11月、JAL本社の一室に陣取って、財務内容の査定を行いながら再建手法の模索に入った。で、出来上がった再建案を12月に関係者に提示した。ところが、提示を受けたJAL や主力銀行は猛反発する。
もともとJAL経営陣は話し合いによる私的整理を目指していたし、債権放棄額が膨らむことを懸念した主力銀行も経営陣に同調。提示された再建案に次のような批判を。
「支援機構は現場の状況が見えていない。楽観的なシナリオではプリパッケージの事前調整型の再建はできない。売り上げが40%近くも減る可能性がある」
私的再建にこだわるJAL 経営陣は社内にコールセンターを設け社員が休日返上でOBたちに懸案の年金減額の同意を求めたりした。
主力銀行も、法的整理は避けるべきだとの独自の調査結果をまとめた。
その内容は「(法的整理を進めれば)給油や空港使用が拒否されるなど、運航の根幹が崩れてしまう」というものだった。
「大量出血」続いていた
一方、支援機構も法的な破たん処理にこだわった。理由はJALに染みついた「甘えの構造」だ。
地方空港をつくり続け、JALに就航を迫る政府や自民党関係者。あげく国内線の7割が、採算の目安とされている搭乗率60%を大きく下回った。そればかりでなくJAL 自体の体質にも問題が。運航トラブルが相次ぎ、客離れにつながった。
リストラを行ってもすぐに次のリストラに追い込まれ、経営を根本から見直す改革につながらなかった。そんななかで、綱渡りの状態だった資金繰りが限界に近づいた。
世界各国にネットワークを持つ航空会社は燃料代などのために随時支払いに充てる資金を用意して置く必要がある。JALの場合、最低700億円必要とされている。年明け、それが2百数十億円まで減る見通しになり、ぎりぎりの段階のなかで支援機構が押し切った。
キャスターの国谷裕子が「ぎりぎりの会社更生法の適用申請だったのですね」と。
番組にゲスト出演した冨山和彦・元産業再生機構COO(9月の『JAL再生タスクフォース』のメンバー)は「そうですね、ぎりぎり間に合った感じだったと思います」と次のような感想を。
「この会社は1昨年秋のリーマンショックのころからすでに『大量出血』の状態が続いていた。『出血死』すると燃料が買えず飛べなくなって、ますます資金繰りが悪化する。飛行を続け何事もなかったかのように再建したのがデルタとかユナイテッドです。止まって悲惨な状況になったのがスイス航空やかつてのパンナム。利害関係者が錯綜するなかで、深刻な事態についての認識のコンセンサスをまとめるのは、なかなか大変だったと思いますね」
もっとも、JAL再建はスタートラインに着いたばかり、本番はこれから。冨山は「古くて大き過ぎる組織、古くて大き過ぎる飛行機を抱えているので、ダウンサイジングをすぐやらないと……」と指摘する。
モンブラン
* NHKクローズアップ現代(2010年1月20日放送)