<テレビウォッチ>最近は「経済大国」と言われることもめっきり減ってきたニッポンだが、それと入れ替わるように「自殺大国」の様相を呈してきた。この10年ほど、年間の自殺者は3万人オーバー。これは先進諸国のなかで、相当の高水準だという。
政府も自殺防止を重要課題と位置づけ、緊急戦略チームを創設するなど、「『自殺』との闘い」に取り組みはじめているが、番組が拾った現場の実態は「人手不足」「窓口不足」。
病院に電話年1万件
自殺には、うつ病や統合失調症などの精神疾患が関わっていることも多い。東京都立松沢病院には、夜中、精神疾患や自殺に関する電話が年間1万件もかかってくる。病院では夜間相談をやってるわけではないが、どこにも相談できず、思いあまって電話してくるのだという。
ある精神科医は1日に数十人の患者を診る多忙な仕事に追われている。「診察室だけで勝負するのはキツイ。家庭に行って、本人を支える、家族を支えることができないもどかしさがある」と話す。
では、どうしたらもっと自殺を防止できるのか。そのヒントは先進国イギリスにあるのだ。彼の国では精神疾患をガン、心臓病とともに3大疾病に設定。「予算も増やし、人員も増やし、スタッフの教育にも力を入れた」(スタジオゲストの岡崎祐士・東京都立松沢病院院長)。
「可能なところから」
その結果は自殺率低下に結びついたが、とくに注目を浴びてるのがアウトリーチ(患者への積極訪問)という手法だ。医師、看護師、ソーシャルワーカー、就活支援スタッフなどがチームを組んで、悩める人のお宅を訪問。医療面だけでなく、生活面もきめこまかく支える。
統合失調症になってしまったトーマスのケースでは、ひきもりがちだった彼を、ソーシャルワーカーが患者が集まる地域のサッカーチームに連れ出すなど、社会と関わりを持たせるように工夫した。「体調はずっとよくなった」「アウトリーチがなければ、もっと孤立していただろう」とトーマスは笑顔を見せる。
さて、そんな夢のような国のVTRは終わり、現実へ。「すぐに日本でも――と思っても、なかなか難しいなかで、いますぐできることは?」と国谷裕子キャスター。「アウトリーチを含んだサービスを必要な人に届ける努力を、可能なところからはじめることだ」と院長。
どうやら長い闘いになりそうだが、こんな「大国」は一刻もはやく返上したいものだ。
ボンド柳生
* NHKクローズアップ現代(2009年12月1日放送)