(C)2009『クヒオ大佐』製作委員会
<クヒオ大佐>父親がカメハメハ大王の末裔で、母親はエリザベス女王の妹の夫の従兄弟であり、自身は米軍特殊部隊ジェットパイロットだと、大嘘をついて女性に近づき金を奪う自称ジョナサン・エリザベス・クヒオ。驚くことにこの日本人ペテン師は「結婚詐欺師クヒオ大佐」と呼ばれる実在した人物なのだ。
冒頭でいきなり、でかでかとブラック画面に「第一部、血と砂と金」と昭和活劇映画を彷彿とさせる文字が映し出される。そして、実際の湾岸戦争のニュース映像が乱れこみ、「第二部、クヒオ大佐」として本編が始まるという作りが、なんとも奇天烈で惹きつけるものがある。
文芸・コメディー・ラブストーリー
希代のペテン師を演じた堺雅人が抜群に良い。実在したクヒオ大佐は白人のような肌を持っていたそうだが、堺は「つけ鼻」だけ。それだけの装飾で違和感を与えないのは彼が「外国人らしい日本語」を完璧に操ったからであろう。独特なのだが、くどさがないクヒオのインチキっぽくて何処か憎めない「口調」は作品全体に上質なユーモアを漂わせる。
けなげにクヒオに金を貢ぎ続け、心が弱く、ロマンを求める女性を演じた松雪泰子も良い。彼女の最大の功は、観客に、この女性がクヒオの大嘘に気付いているのか、気付いていないのかを解らせなかったことだ。その女性の弟を演じた新井浩文にも驚いた。他の役者と明らかに毛色が違う彼の個性は、作品のバリエーションを広げており、とりわけユーモアの部分での貢献度は計り知れない。クヒオが隠し持つ純真性を引き出すハルという女性を演じた満島ひかりも最高にチャーミングで、2面性を持った難しい役を自分のものにしている。本格派の注目役者だ。
上質な役者たちと、テンポの良い物語の進行のリズムと、吉田大八監督の演出が絡み合い極上のエンターテイメントを作り上げている。突然米軍兵が登場するなど、予想のつかない展開のダイナミズムも「これぞ映画!」という説得力を持っている。
嘘で固めた人生を送るクヒオはなんやかんやで女性にモテる! 何故? 映画を観終えた後、その理由がなんとなく解るのだから、尚さら不思議だ。それどころか、あの「つけ鼻」がどうにも胸が痛むほど愛しく感じてくるのだ。この「愛しさ」は作品のテーマなのかもしれない。おそらく我々観客が日本人であるからこそ感じるものに違いないのだ。
文芸作品、コメディー、ラブストーリー。どの視点で観ても「映画」に辿り着くであろう2009年度の邦画の旗手に成りえる大傑作だ。
川端龍介
オススメ度:☆☆☆☆