<テレビウォッチ>テレビでは美しくうっとりするような笑顔を振りまいてくれる女優たち。
情報番組やバラエティーなど、普段女優が出ない番組に番宣などで出てもらうことになると、若手スタッフたちは大騒ぎになる。いそいそと鏡の前で歯に海苔が付いていないか、髪型はおかしくないか、まるで初デート前のようにソワソワ落ち着かない。なにも異性として見られているわけでもないのに……。しかしその初デートで、百年の恋が一気に冷めて幻滅することもある。
おしぼり事件
それは、たとえばこんな時。
高級中華料理店である女優さんと打ち合わせを兼ねた食事会をしたときのこと。日本映画史にもその名が残る70歳を超えた大女優が見せたある行動に、周囲の人間の誰もが凍りついた。円卓に着席し、お冷とおしぼりが配ぜんされた時のこと。おしぼりがスパーっと目の前を飛んで行った。大女優が円卓を挟んで座った自分の付き人にビニール袋に包まれたおしぼりを投げたのだ! この行動にどう対応すればいいのか? 同じ番組に出演するタレントも同席していたのだが、助けを求めるような視線をぶつけてくる。
当然会話は一時中断。おしぼりを投げられた付き人のおじいさんは動じず一切表情を崩さない。にこやかにおしぼりのビニール袋をきれいに切り取り、袋から半分だけおしぼりを出して大女優の傍に歩み寄り差し出した。何もなかったように彼女は付き人に一切目を向けることなく、おしぼりを受け取り過去の栄光話を話しだした。私は彼女の行動に目を奪われその後、彼女が何を話したのか全くもって頭に残っていない。
数々の名監督と仕事をし、名画に出演している大女優のおしぼり投げ事件。いくら銀幕の世界で生きてきた人とはいえ、それはないだろうと幻滅した。かつては銀幕のスターとして、この程度のものはワガママとして許されていたのかもしれない。ただ、現在のようにスターが身近に感じられるようになった今は、わがままはただの傍若無人としか映らない。
「女優という生き物」
しかし彼女のようなタイプの女優さんは少なくないことを、仕事をしていくうちにわかってくるようになった。どうも、自分の名前を事務所にしている芸歴40年を越えるような大女優さんクラスに確率が高いように思える。
業務連絡が二転三転する、人前で自分のスタッフをぞんざいに扱う、スタッフをタクシー運転手だと思っておりプライベートの外出まで引き連れ回す、番組の出来不出来をスタッフに責任転嫁する……など、女王様ぶりエピソードが何人かの女優さんのエピソードとしてあちらこちらから聞こえてくる。
私の知人でもマネージャーや付き人で、円形脱毛症に何度もかかる、うつ病になる、パニック症候群になる、過食症になる……など悲惨な状況になっている人が何人かいる。イメージとは裏腹の女優の素顔におぞましくなってしまう。
そんな話を、元俳優で現在は脚本家として活躍している人物に話をしたところ「女優は人間じゃない。女優という生き物だからね。」と言い放った。
女優さんと一緒に仕事をするときは、彼女だって1人の人間だからと思って接してはいけないよ――。この話を聞いてからは、女優と一緒に仕事ができるとはしゃいでいるバラエティースタッフを見ていると、知らぬが仏という言葉の意味をかみしめる。
モジョっこ