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<パイレーツ・ロック>ドラッグと喫煙により高校を退学させられたカールは、名付け親であり母親の旧友でもあるクエンティンが乗る船に預けられた。その船は「RADIO ROCK」という海賊ラジオ局で、船内にはロックミュージックを愛する8人のDJたちがいた。
1966年、ビートルズ、ローリングストーンズを生んだイギリスでは、政府の推奨もありBBCラジオはジャズやクラシックをメインに流し、ロックミュージックは1日45分しか放送を許されていなかった。若者を中心に多くの人間はロックミュージックに飢えていた。そのような時代に登場した「RADIO ROCK」という海賊ラジオ局は、政府の監視の目を掻い潜り「法律の外」である他国の海上で、船の中から電波を流し、24時間ロックミュージックをリスナーに送り続けていたのだ――実話の映画化。
海賊放送とシブい選曲
キンクスの『オール・オブ・ザ・ナイト』が流れる冒頭から、常にこの映画はバックに流れるロックミュージックと共に進行していく。『ハイ・ホー・シルヴァー・ライニング』や『イエスタデイズ・マン』などロックマニアもシビれること必至の劇中曲のセレクションがシブい!
DJたちのそれぞれのキャラクターが1人ずつ鮮明に際立っていて、上質な役者たちの熱演もあり愛着を持ちやすい。観客それぞれが、必ず好きな人物を見つけられるのではないか(ウィル・アダムスデールが演じた、毎日ニュースを実直に読み上げるジョンの優しいロックンロールが胸を締め付ける)。
ロックとは初めて聴いた衝撃が「頂点」で、後は下降するだけなのかもしれない。ただロックには、いつでも「初めてロックを聴いた時」に人間を若返らせる魔法がある。「RADIO ROCK」のDJたちは、全員がその魔法にかかってしまっているのだろう。自分たちの信じた音楽を流し続ける彼らの生き様が、ロックというものの根底にある反発、野蛮性、反道徳性、自由、優しさを浮き彫りにする。それらを言葉にせず、感覚的に伝えることにより、説教臭さのない、正に混じりっ気がない「ロックンロール」を体現している雰囲気が作品全体に溢れており、「ロック映画」という名目に一切の偽りはない。
ラスト30分が……もったいない。物語は毛色を変えてロックとは離れた「ハリウッド映画的スペクタル」とでもいうのだろうか「解り易い解決」に向かってしまう。突然退屈になり、135分という上映時間も長く感じてしまう。脚本の甘さといえばそうなのだろうが、ロックがその存在と相反するものに呑まれてしまった感が残るのが残念で仕方ない。
誤解を恐れずに言うならばこの映画の「物語」など、どうでもいい。それよりも本物のロックンロールを最後まで貫いて欲しかった。その不満は満足に比べれば、取るに足らないことだが。
川端龍介
オススメ度:☆☆☆☆