<テレビウォッチ>「がんワクチン」をご存知だろうか。手術、抗がん剤、放射線治療に続く第4のガン治療法だ。患者自身の免疫システムを使ってがんの進行、転移を抑えるために、副作用も少なく、最良の治療法と期待されている。
その治療の仕組みはこうだ。ガン細胞の表面にはペプチドという組織ができるが、もともと患者の細胞だからリンパ球はこれを敵と認識しない。そこで同じペプチドを注射してリンパ球に攻撃させると、次にリンパ球はがん細胞のペプチドを攻撃するようになる。これで進行がとまり、縮小した例もあるという。
研究費不足と遅々とした歩み
和歌山県立医大ですい臓がん治療をうけていた硲禎己さんは一昨年の2007年、「余命7か月」と診断された。すでに手術には遅く、病院の提案でがんワクチンの臨床試験を受けた。
注射で8回投与されたが、がんの進行が止まり、1年後、2年後も変わりがなかった。硲さんはそのまま、建物内装の仕事もつづけ、旅行にもいった。残念ながらこの8月に容態が急変して亡くなったが、当初の診断を完全に覆した。
同病院のすい臓がん患者の生存率は、抗がん剤だけだと、1年半で全員が死亡しているが、抗がん剤とがんワクチンを併用した18例は、2年4か月になった。
ゲストのジャーナリスト鳥越俊太郎は、「これが有効なら、すごい光明だな。私もがん患者ですからね」という。
NHK科学文化部・籔内潤也記者は、「いまはまだ科学的効果を確かめている段階で、誰でも受けられるわけではない。大学やがんセンターなど限られている」という、また、試験は、「安全性」「有効性」「総合評価」の3段階があって、和歌山の例は、3段階目にあたるという。あと一歩だ。
ペプチドは臓器によって異なるため、それぞれの特定が必要で、東大病院では目下、肺、胃、ぼうこうなど13種類の臨床試験が行われている。しかし、その歩みは遅々としている。理由のひとつが研究費不足だ。
札幌医大ではいま第1段階の試験(15件)が行われているが、総額2億円かかる。第2段階は症例が60人になり、試算では20億円という。しかし今年の研究費は、厚労省、文科省合わせて6400万円だ。
NPOの動きも違う日米
アメリカでは全く事情が違った。ジョンズ・ホプキンス大学では、すい臓がんの第2段階の研究を終えていた。30人のスタッフと最新機器に30億円。これをNPOが支援していた。1万7000人がネットやイベントで寄付を募り、27億円を提供したという。
NPOのメンバーは陳情もする。「研究者は陳情する必要はない。私たちがそれをやる」。この結果、10年間で研究費は4倍に増えた。いま全米で400の臨床試験が行われているという。公的資金でも、米政府のがん研究費は5000億円以上だが、日本では数百億円だ。
国谷裕子は、「そうして開発されたものを日本で使えないのか?」
薮内記者は、「臨床試験が必要になる。アジア人とヨーロッパ人ではペプチドが違うので、日本人にあったワクチンを開発する必要もある」
鳥越は、「1日も早く結果を出してほしい。この間にも亡くなっているんですから。1番違うのは金だろうが、日本ではおそらくダムにいっちゃってるんだろうな」「もうひとつは市民が立ち上がることで、私も支援団体をやっているが、なかなか集まらない」と嘆いた。
ダムや道路は、いま民主党が削り倒しているが、マニフェストで手一杯。がん研究にまで目がいくかどうか。
ヤンヤン
* NHKクローズアップ現代(2009年10月26日放送)