(C)福本伸行・講談社/2009「カイジ」製作委員会
<カイジ 人生逆転ゲーム>世のギャンブラーたちのバイブル的作品であり、発行部数が1100万を越える福本伸行の同名漫画が原作。
非生産的な毎日を送るフリーターの伊藤カイジ(藤原竜也)は、ある日帝愛金融の遠藤(天海祐希)から、知り合いの借金の保証人になったことにより、その肩代わりを迫られる。法外な金利により膨れ上がった借金。返済能力のないカイジは遠藤の勧めにより、一夜にして大金を得られるという「エスポワール」と名付けられたギャンブル船に乗り込むのだったが……。
結論から言えば、おもしろい。だが、それは原作がおもしろいということに過ぎない。漫画から映画への昇華はされていない印象。独特の倒置法や体言止めを駆使した「福本節」と呼ばれる台詞回しなども、漫画だからこそ効果を生む。映画では、それが演技過多というか、演劇的というか、何処か「一人芝居」に陥っている感が目立つ箇所が、気になってしまう。原作では男の遠藤を女にしていたりするが、それでも原作をそのまま映像化したに過ぎないという印象は否めない。その作りは、やはり安易だ。
人気コミックの映画化という近頃流行りの流れだが、その流れの中で「違い」のない典型的な商業映画であり、「原作の紹介」の域を脱していない。長い物語を129分の中で良くまとめているし、原作を読んでいる者はそれなりに楽しめるであろうし、知らない者は原作に興味を持てる作りにはなっているだろう。近頃の商業映画にしてはCG合成も抑え気味で好感が持てるし、原作の最大の魅力である賭博の「かけひき」も巧みに描いており、心理的スペクタクルを味わえる。が、それも原作による功だ。
映画として撮る「意味」が薄い。薄すぎる(故に柳島克己のカメラワークの秀逸さは目立ったが……)。社会の底辺の人間に「箴言」を浴びせる利根川を演じた香川照之など本格派映画俳優を起用している傍ら、ネームバリューだけで起用したであろう佐原役の松山ケンイチはお世辞にもハマり役とは言えない。キャスティングに関しても練られている印象は薄く、安直だ。
秀逸な原作を実直に映像化しても、映画としては秀逸とは限らない。一応完結的に作られているが原作の容量からすれば「続編」も十分に作れるであろうし、視野に入っているだろう。次回作では原作の忠実な映像化作品ではなく、原作という幹に、映画という葉を纏った作品を観たい。人気コミックの映画化作品全般に願う。
川端龍介
オススメ度:☆☆