「保護条約」日米英批准せず
ここで、ユネスコが「陸の文化遺産と同様、考古学的価値の高い水中文化遺産も守らなければいけない」(松浦晃一郎ユネスコ事務局長)と保護条約を制定し、今2009年から発効した。
条約の中身は(1)水中文化遺産の商業的利用の禁止(2)領海だけでなく公海も保護の範囲が及ぶ、というもの。
ただし、現在までに批准した国はスペイン、ポルトガル、メキシコ、キューバなど26か国にとどまり、日本やアメリカは批准していない。
畢竟、宝探しに狂奔するトレジャー・ハンターたちと積極的に保護しようとする沿岸関係国の熾烈な攻防戦がいまだに繰り広げられているのが現状だ
国谷キャスターが「金銀財宝をザクザクと引き上げ、持って行ってしまう現状をどうみます?」に、国際海洋法に詳しい小山佳枝・中京大准教授は次のように答えた。
「ユネスコの調査によると、この10年間で160回もの盗掘が報告され、なかには値を釣り上げるために文化遺産の一部を破壊した悪質なケースもあります。今まだ、無法が続いていると……」
笛吹けど踊らず。なぜ条約の批准が進まないのか。その理由について条約制定会議のアメリカ代表は次のように言う。
「米英、日本など伝統的な海洋大国は、条約によって保護領域がなし崩し的に拡大することに懸念を抱きました。妥協点を模索しましたが、米英としては納得できるものではなかった」
さらにもう1つ大きな懸念材料があるという。
小山によると、各国が海洋資源の開発に注目している中で「この水中文化遺産保護条約の枠組が、海洋資源開発の枠組づくりに大きく応用されていく可能性があると見られている」のだ。
国谷は「水中文化遺産と海洋資源とは大きな開きがあるように思えるのですがね~」と訝るのももっともな話だが、資源開発の枠組が絡むとなると、やはり批准には慎重にならざるをえないのかも……
この点、番組で日本政府の考え方にも触れてほしかったが、残念ながら聞くことができなかった。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2009年9月9日放送)