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<路上のソリスト>ロサンゼルスタイムズの有名コラムニスト、スティーブ(ロバート・ダウニー Jr.)は、二弦しかないバイオリンを無心で奏でるホームレス、ナサニエル(ジェイミー・フォックス)と出会う。その音色に感動したスティーブはナサニエルについての記事を書くため、取材を始める。
そして、ナサニエルはチェロ奏者として類まれな才能を持ちながらも、統合失調症のため音楽の道を断念し、ホームレスになったことを知る。スティーブはナサニエルの埋もれた才能を何とか開花させようと、オーケストラのリハーサルを見学させ、練習用のアパートを用意し、精神病患者のための施設を紹介するなど、さまざまな手を打つのだが、その行動が逆にナサニエルを追い込んでいく。
この映画を引っ張っていくのは、まさに音楽である。たとえば、スティーブはナサニエルの奏でるバイオリンやチェロの音色に吸い込まれるようにさまざまな行動を起こしていき、それによって2人に葛藤が生まれる。
しかし、ナサニエルの音楽が魅了するのはスティーブだけではない。観客をも巻き込むことに成功している。ナサニエルの奏でる美しい音楽に観客が引き込まれることで、「ナサニエルをどうにか助けたい」というスティーブの行動と葛藤はリアルで切実なものとして映る。
また、映画という表現方法を用いる以上、音楽の美しさを映像で表さなくてはならないのだが、その点でも成功している。ナサニエルが初めてチェロを弾くシーン。彼が音色を奏でると、画面がゆっくりと上昇し、空からロサンゼルスの喧騒を映し出す。普通、感覚的な美しさを映像で表現する場合、イメージショット(たとえば自然の風景とか)を用いることが多いが、このシーンでは観客をロサンゼルスに留めておくことで、喧騒をもかき消してしまう美しさを見事に表現している。
他にもいくつかある演奏シーンだが、目に見えない音楽を映像で表現することへの工夫がどのシーンにも施されていて、好感が持てる。少なくとも音楽の邪魔をするような映像はなく、美しい旋律を目と耳で味わうことができた。
ただ、素晴らしい音楽に隠れてしまってはいるが、全体のストーリー展開に無駄が目立つ。たとえば、冒頭でスティーブが自転車事故を起こし怪我を負うのだが、その理由がいまいち分からなかった。実話を基にしているから、ナサニエルに出会った時期に実際、スティーブは怪我をしているのだと思う。しかし、そのエピソードを映画に挿入する場合、それなりの理由が必要になる。実際は偶然起きた事故でも、映画の中では起きるべくして起きた事故でなければならない。他にも、統合失調症の症状の羅列に終始していた印象を受ける回想シーンなど、あまり機能していないシーンが目立ったのが残念。
とはいえ、人物の行動にリアリティーを与えるほどの素晴らしい音楽は見ても聴いても損はなし。もちろん、DVDではなく音響設備の整っている劇場での観覧を強く薦める。<テレビウォッチ>
野崎芳史
オススメ度:☆☆☆