(C)Les Films Pelleas 2008
<ベルサイユの子>フランスが誇る世界遺産ベルサイユ宮殿を囲む森の中には、多数のホームレスたちがひっそりと暮らしている。そんな事実を基に、人と人との絆を描いた作品。
23歳のホームレス女性ニーナ(オーレ・アッティカ)は、5歳の息子エンゾ(マックス・ベセット・ドゥ・マルグレーブ)とフランスの街を放浪した末に、ベルサイユの森へと迷い込む。ニーナはそこで出会ったホームレス男性ダミアン(ギョーム・ドパルデュー)と一夜を共にしたあと、エンゾを残し、姿を消してしまう。ダミアンは初めこそ戸惑いながらエンゾを拒絶するが、徐々に心を開いていき、やがて2人の間には実の家族のような絆が生まれていく。
この映画は、人物の感情を決して言葉で説明しない。余計なセリフは可能な限りそぎ落とされ、代わりに人物の動きがそれを補う。「ごめんね」という言葉の代わりに抱きしめる。「愛している」の代わりに手を繋ぐ。そんな動作での感情表現は、言葉ではっきりと言うのに比べ、想像する余地が残されている分、観客の胸を打つ。
もちろん、それを可能にさせたのが役者たちの演技である。特にエンゾ役のマックス少年が素晴らしい。病に倒れたダミアンを助けるために、エンゾがベルサイユ宮殿に助けを求めに行くというシーンがある。森から宮殿までただ『走る』という行為だけなのに、ダミアンへの愛情を痛いほど強く感じられる。
また、マックス少年は、喜怒哀楽のどれにも属していない表情を浮かべる。はっきりと喜怒哀楽を区分せずに、喜+怒とか哀+楽など、さまざまな組み合わせを見せてくれる。そのように微妙な感情を見事に表現している分、ベルサイユの森でホームレス仲間に囲まれていたときに見せた『喜』や、社会復帰を果たした後に見せる『哀』などのストレートな感情表現が見事に映えている。
作品全体としては、『貧困』や『格差社会』といったフランスのみならず世界中が抱える大きな問題をエンゾとその周囲の人々という小さな視点を通して描いているので、作品の世界に入り込みやすい。ベルサイユ宮殿とその森のホームレスというコントラストも効果的で、テーマに力強さを与えていた。ただ、ところどころ展開が唐突な部分があり、観客の想像に委ね過ぎているという印象を受けてしまったのが残念だ。
野崎芳史
オススメ度:☆☆☆☆