「米国の医療保険負担」と「日本の儲け」 オバマが制度にメスを入れた

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   オバマ大統領は就任早々、「医療保険制度は長年社会の重荷になってきた。もう先送りはできない」と、抜本的な医療保険制度改革を打ち出した。

   確かにアメリカの医療の現状は深刻だ。ニューヨーク市内の総合病院で、直腸ガンが進行していると診断され、「どうしたらいいのか」と途方に暮れる男性がいた。彼にはかつて職も医療保険もあった。職を失ったとたんに全てが失われるという典型例だ。

「児童医療」拡大で400万人加入

   アメリカには、日本のような国民皆保険制度はない。国民の6割は企業が提供する団体保険が支える。他は保険会社と契約をしているが、保険料が高いために、低所得層は入れない。これが「無保険者」だが、金融危機以後の倒産、解雇で、700万人が無保険に転落し、いま5000万人とされる。

   企業はこれまで、退職者の医療保険の面倒もみてきた。これが老後の安心であり、優秀な労働者を集めることにもなった。即ちアメリカ経済を支える中間層を形成してきたのである。しかし企業にとっては大きな負担だった。

   自動車1台あたりの人件費の日米比較がある。賃金と医療保険料負担の合計でアメリカが4万4400円高い上に、退職者の保険料9万5000円がある。

   この差額13万9400円は、日本の1台あたりの利益に相当するという。ビッグ3全体では年間100億ドルにもなるという。企業の競争力に響くのは当然だ。

   オバマ大統領の視線は、これら全体をにらんでいる。「医療費は8年間に賃金の4倍のスピードで上昇した。これが個人の生活を脅かしているだけでなく、企業の国際競争力をも奪っている」。医療保険の改革が中間層を再生させ、経済の再建につながるというのだ。

   オバマ大統領は就任16日目に、親の所得が低い子どもを救済する児童医療保険の拡大を決め、400万人が加入した。また29日目には、失業者への保険料助成(政府が65%を負担)を打ち出して、企業保険に9か月間継続できるようにした。これで700万人が救われたという。

「日本がこれから問われること」

   この緊急策に続くのが、公的医療保険制度の創設だ。2010年度予算に「10年間に63兆円を投ずる」とうたった。財源は富裕層への増税。レーガン大統領以来30年続いた「小さな政府と自由市場にまかせる」政策との決別である。

   これは15年前クリントン政権がとりかかったが、共和党によって「社会主義だ」と叩きつぶされたもの。当時これを主導したのは、ファーストレディーだったヒラリー・クリントン現国務長官というのも皮肉な巡り合わせだが、すでに闘いは始まっている。

   抵抗の主力は保険会社だ。「自由市場だからサービスの質を落とさずにコストを下げられる」「だれもが保険に入ったら病人が殺到して、医療費がはね上がる」。また共和党からは、「オバマは大きな政府の限界を理解していない」などなど。

   対してオバマ政権は、中間層に向け、選挙戦さながらの草の根キャンペーンを張っている。戸別訪問をレポートした工藤典子記者が、「15年前には無関心だった人たちが、いまは賛成にまわっている」といった。

   このオバマの方向性を経済評論家の内橋克人は、「経済だけでなく社会全体を向上させるために、正統な政府機能をフルに働かせようとしている」と評価した。同時に、「これは日本がこれから問われることでもある」と。

   オバマの目的意識はおそらく正しい。保守派との闘いはし烈をきわめるだろうが、長期展望には揺るぎがないようだ。その意味で、内橋の日本に関する指摘は鋭い。

ヤンヤン

   *NHKクローズアップ現代(2009年4月23日放送)

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