老老介護という言葉を最近マスコミなどで、よく耳にするようになったが、今回の放送「なぜ死なせてしまったか~認認介護の現場で~」では、さらに新しい言葉が出てきた。
「認認介護」。声に出すと、ニンニン介護。ロウロウ介護とくらべると、なぜかコミカルな響きがあるように感じるが、もちろん笑い事とはほど遠い。これは認知症の人が認知症の人の介護をすることだ。認認介護の多くは老老介護とも重なるであろう。老老介護に疲れて、無理心中を図るといったニュースは昨今珍しくないが、最近増えつつあるという、認認介護でも悲劇が起きた。
複数の関係機関も危険なサイン見逃す
仲がよいことで知られていた富山県のある夫婦。夫が認知症となり、妻は献身的に介護していたが、自分も認知症になってしまった。症状は悪化し、近所の人の話では、日時や曜日の感覚もなくなってしまっていた。そんな妻はオムツを替えるのを嫌がる夫を叩き続けて、死なせてしまった。しかし、本人は叩いたことを覚えておらず、なぜ夫が死んだのかも理解できない状態だという。
スタジオゲストの永田久美子(認知症介護研究・研修東京センター主任研究主幹)は、認認状態では、お互いの認知症の進行で、生活状況が急変(悪化)してしまうこと、自分から適切なSOSが出せない、などの危険な特徴を指摘する。
富山のケースでは、夫婦は孤立していたわけではなく、地域包括支援センター、ケアマネージャー、デイサービス施設、かかりつけの医者など、複数の医療・介護サービスを受けていた。妻の認知症に気づき、なかには虐待の兆候を発見した者もいた。しかし、永田によれば、それぞれの機関が断片的に見ていたため、危険なサインを見過ごしたのかもしれないのだという。
こうした介護医療機関が連携し合って、本人の総合的な状況把握につとめるべきだ。「あの、私たち自身はどう取り組めばいいんでしょう」と、国谷裕子キャスターの代役の森本健成キャスター。そこで永田が「いかがですか、認知症になったら?」と逆質問するクローズアップ的に異例な展開。「祖母が認知症だったので…やはり心配」と森本が答える。この回答は、専門家にとって模範的とは言いがたかったようだ。たとえば「心配するより、認知症になっても、こう生きたい、これを大事にしたい」(永田)といった希望を元気なうちに表明するなど、家族も自分もなるかもしれない認知症時代への心の備えが大切だ、ということらしい。
ボンド柳生
※老老介護*NHKクローズアップ現代(2009年3月3日放送)
高齢の親を高齢の家族が介護するなど、高齢者が高齢者の介護をすること。日本では長寿化、人口の高齢化によって、老老介護が増加中といわれるが、それに伴って、今回番組が取り上げた「認認介護」も増加すると見られている。