この3月から、「集落支援員制度」がスタートする。国の過疎対策の大転換である。これまでの対策は、道路や施設作りなど公共事業が中心だった。1970年の「過疎法」制定以来、これに75兆円が投じられたが、過疎化の波を食い止めることはできなかった。新制度は、モノから人への転換だという。
移り住み、支援員に
その発想のもとになった集落がある。新潟・上越市中ノ俣、人口90人の半数以上が65歳以上という、いわゆる限界集落だ。58歳の男性がいう、「多分オレが最後で、戸を閉めて出ていくと思っていた。人間1人じゃ住めないからね。いま、そうじゃなくなった」。何があったのか。
7年前、森林を守るNPO法人のメンバーの若者8人が移り住んできた。かれらが開いた子どもたちの環境学習で、お年寄りたちが山の生活を伝える先生になったのが、始まりだった。いま若者たちは、一人暮らしのお年寄りに声をかけ、道路の整備や川の清掃など集落の共同作業を一緒にやっている。お年寄りに笑顔が戻った。
ただ、NPOの運営はきびしい。上越市から環境学習の委託費が出る。これに野菜の通信販売などを加えても、生活するのに精一杯だ。「これを国が負担できたら、過疎対策になる」--これが、新制度の発想につながった。
「支援員」は市町村が任命する。過疎の集落に住み込んで住民の生活上の問題を聞き取り調査し、お年寄りの支援もする。そのうえで対策をたてるのが役割だ。その人件費や活動費を国の交付税でまかなう。
山口県立大の小川全夫教授は、「お年寄りは、若い人を鏡にして自分たちの日々の生活を再認識する。支援する側も、都会では得られないものが得られる」と。また、平成の大合併は、従来の行政とのおんぶにだっこをしにくくした。「その間隙を若者たちの活動が埋める」のだという。