2年ぶりに『復活』した司会の中居正広、仲間由紀恵コンビに「崖の上のポニョ」の主題歌を歌った大橋のぞみを加えて幕を開けた「第59回NHK紅白歌合戦」。大晦日の夜も更けて、残りわずかとなった頃に、中居はようやくあの曲の復活を告げた。もちろん、森進一の「おふくろさん」である。
スピード感の鈍ったSPEED
だが、その前に…・・・。同じく「復活」した1組の出場者に注目したい。いわゆる『大物』とは呼べないし、呼びたくもないが、かつての華々しくも刹那的な人気グループ「SPEED」。紅白では9年ぶりとなる復活ステージは、ゲスト審査員の堀北真希をはじめ、それなりの期待を集めていた。
一部報道では代表曲「White Love(Re Track)」を「ブランクを感じさせずに熱唱」したそうだが、当欄では残念なことに、そうした予定稿的光景は目撃できなかった。
それどころか、歌唱といい、身のこなしといい、キレやカン、スピード感がまるで鈍ったSPEEDをそこに見たのである。出身地である沖縄芸能人ブームやヒットメーカー・プロデューサー、ロー~ミドルティーン時代の怖いもの知らずなパワーと勢い――。当時のSPEEDを押し上げ、いまでは消えてなくなった「歌力」以外の大きさがしのばれ、ステージに立ったメンバーたちは、実際の年齢以上に老けこんでしまったかのようだった。
そこで当欄では、第1回わざわざ復活しなくてもよかったで賞をSPEEDに贈呈することにする。今年は全国ツアーなどで、本格的に再結成活動するというSPEED。もしも万が一、彼女たちが失った時を取り戻し、年末の紅白に新たなヒット曲を携えて出場した暁には、この賞を喜んで剥奪する予定ではある。
「血管もキレよと」おふくろさん
さて、上から下まで白装束でステージに立った森進一。これまでのおふくろさん騒動に軽く触れ、作詞者川内康範氏の遺族を呼んで和解ムードを醸したレコード大賞とは対照的に、紅白では騒動そのものには一切言及なし。森自身が「これからも(歌を)心をこめて歌い続けたいと思います」などと、騒動を意識しつつも、直接は触れない形のシンプルな挨拶。ただ、歌う直前に「作詞、川内康範。作曲、猪俣公章。おふくろさん」と告げることで、詞と曲への敬意を表したのはスマートなやり方と思えた。
いざ歌いはじめれば、血管もキレよとばかり、2年ぶりに「おふくろさん」を熱唱する様はまさに鬼気迫る。「誰がなんと言おうと、禁止されようと、この曲の歌い手はオレしかいない」といったプライドがみなぎり、良くも悪くも強烈な歌力が全身から放出されていた。
ずんどこ・キヨシの「トリ」は「合格」か
強烈といえば、今年の紅白は、近年にくらべてNHK臭が少々露骨だったかもしれない。平和、環境、日本人の誇りなどについてのメッセージ、客席では出演者の家族が(涙ながらに)応援し、「天国の(恩師)○○のために歌う」といった曲紹介、尻切れとんぼな会話や映像、最後までほとんど役に立たなかった紅白応援隊などなど。カタにはまった紅白批判、NHK的演出批判は当欄の好みではないので、古典回帰(けっしてルネッサンスではない)的にして王道的な紅白だったと評価したい。
大トリ常連の大御所北島三郎から、今回はじめて大トリをつとめる氷川きよしへのバトンタッチを強調する演出も目についた。北島が公演の常連だったコマ劇の閉鎖を紹介したかと思えば、きよしの出番では北島が激励して送り出し、2人が握手するなどのシーンにカメラは密着して追いかける。
当のプリンスきよしといえば、変化球的なご本人キャラクターソング「ずんずん(略)ずんどこ、キヨシ!」を持ち前のとぼけた声色で熱唱。「(氷川のトリが)よかった」「よかった」という和田アキ子ら出演者の声の大きな内輪ボメに、これも釈然としない思いのなか、08年の紅白は幕を下ろしたのであった。
ボンド柳生