今回の放送タイトルは「失速する中国経済」。時代を二世紀勘違いしたような猛烈、猛進(妄信?)的資本主義的精神で急成長してきた中国にも、世界不況の波は遠慮なく押しよせ、広大な大地をすっかり呑み込んでしまったらしい。
広東省深センといえば、繁栄の象徴だった海岸部の工業都市だ。番組が取材に訪れると、米国などへの製品輸出の不振に加え、金融機関の貸し渋りで経営が行き詰まり、倒産、夜逃げする企業が続出。街中ではホームレス失業者が膝を抱え、貧しい農村から都市に出稼ぎにやってきた人たちのUターンラッシュもこれからピークを迎えそうだ。
「家電下郷」で政府が13%負担
では、どうすれば!? 今回は番組の基本フォーマットである「問題と対策」通りの進行である。答えは簡単。海外輸出がだめなら、内需拡大しかない――。政府は今後50兆円規模の経済浮揚用マネーを用意しているが、その嚆矢で、温家宝首相も「国内の需要を確実に拡大させる」という政策がある。
名付けて「家電下郷」。家電を農村に、という意味だそうだ。カラーテレビ、冷蔵庫、洗濯機、携帯電話を対象省の住民が買うと、購入価格の13%を政府が負担する。売り上げ不振に悩む家電メーカーには新たな市場が、そして経済発展から取り残され、喫茶店もレーザーディスクも無えような農村にも、夢の神器が手に入る。まさに一石二鳥というわけだ。
その効果のほどを確かめに、取材カメラが四川省成都の電器店を訪れた。この店では売上倍増を目論んでいたが、いまのところ1割程度増にとどまっている。店を訪れた客は「13%の補助では全然足りない」。中国の農民の月収は350元ほど。ところがカラーテレビは最安のものでも500元だというから、もっともな言い分に思える。
「この政策だけでは、(内需拡大の)効果は限定的ではないか」とスタジオの国谷裕子キャスターも懐疑的だ。ゲストで出演した富士通総研・主席研究員は、デフレスパイラルを防ぎ、社会保障の整備を、と提言する。大きな話はもっともに聞こえるが、雲をつかむような曖昧さだ。具体的な、泥臭い政策はどうも実効性が疑わしい。
バブル崩壊の前にいた自信満々の天才たちはどこかに退場し、この世界は急に、不況の前に手探りしながら、右往左往する無力な凡人の集まりへと変わってしまったらしい。
ボンド柳生
*NHKクローズアップ現代(2008年12月16日放送)