若者の間に拡大する大麻汚染。警察庁によると、今年(2008年)10月末までの検挙者数は2150人に達し、過去最悪だった昨年を上回るペースという。
「社会が病んでいるから」
ハイペースの検挙者数は、取り締まりの強化もあるのだろうが、『夜回り先生』で知られる花園大学客員教授の水谷脩は、背景にあるのは「社会が病んでいるから」だと警鐘をならした。
これまで「体への害」については正面切って取り組んだ報道は見たことがなかったが、国谷キャスターが「大麻汚染をどう食い止められるでしょうか」と取り上げた。
番組は、現在リハビリ中の29歳の男性を取材した。この男性が大麻を始めたのは大学時代。毎日のように大麻を吸い続けた。
ところが、そうしているうち次第に、現実と非現実の境が分からなくなった。そんなある日、CDショップで20枚のCDをカゴに入れ、隠すこともなくそのまま店をでたところを店員に呼び止められた。
しかし、その後もやめられずに、逮捕→刑務所のおきまりのコースを。施設に入って現在3年が経過したが、社会への復帰はできずにいる。
この男性は自戒しながら「僕の経験からいうと、ずっと吸い続ければ選択肢は4つです。刑務所に行くか、精神病院か、施設か、死ですね」という。
薬物乱用防止の教育に取り組んでいる水谷脩によると、薬物は1980年代から、ファッション性のあるドラッグとして大学に入り込んでいた。ただ、高いので経済的に恵まれた学生、格好つけの学生やサーフィン、スノーボードで遊ぶ学生の間で吸われていた、とか。
「精神的依存性、すごいものがある」
それが2002年ごろから、覚せい剤の密輸が減って、さらに価格が高くなり利用者も減った。資金源に困った暴力団が、外国人を使って大麻を売るようになり学生たちがモロに罠にはまったのだという。
「大麻の害をどう認識したらいいのでしょう」という国谷に疑問に、水谷は次のように答えた。
「依存症が厄介です。切れると手が震え、喉が渇くなど身体的依存症が強いのはアルコールが典型的。大麻は、これがほとんどないといわれている。(大麻の)合法論者は、だから認めてもいいとバカなことを言っている」
「しかし、大麻の精神的依存性はすごいものがある。乱用で脳を壊してしまう。脳の神経は再生不能ですから、多少回復しても治ることはない」
また、「汚染拡大の大きな背景をどう思われますか?」の国谷の疑問に、水谷は「薬物乱用は社会の病と思っています」と次のような提言も。
「幸せな明日を夢見る社会では、若者たちは薬物なんて使いません。まじめに勉強に努力しても就職先は派遣では、今を楽しむしかない。
やった奴の自己責任。法を犯したのだから償え、大学を去れ、でいいのかどうか。医療機関に入れリハビリさせる一定期間、大学を休学させ、もう一度チャンスを与える余裕が欲しい」
『勝ち組』だ、『負け組』だ、市場原理主義だと、やみくもに規制緩和を進めた小泉構造改革の負の部分が今、若者に閉塞感を与えている。若者たちを慈しみ育てる視点を欠いた社会を見直すべきかもしれない。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2008年12月3日放送)