今回の放送は、別番組の「トップランナー」見るようだった。社会現象、ムーブメントに焦点を合わせることの多いクローズアップ現代が、村上隆という1人のアーティストに密着。国谷裕子キャスターがインタビューで『迫る』形式だ。最近、「ニッポン」へのコダワリを増している番組の放送タイトルは「ニッポンを主張せよ」。
アニメ・漫画文化、海外むけに「通訳」
村上および番組の解説によると、日本は戦後の平和のなかで、かわいさを基調とするアニメや漫画の文化を育ててきた。それは素晴らしいモノだが、敗戦で自信を失い、欧米の価値観に染まった当の日本人はその価値に気付いていなかったのである。
そこで村上は、自分がいいと思ったアニメや漫画を――ピカソがアフリカ美術に対してしたように――取り入れて再構築。海外にむけて通訳したのだそうだ。
しかし、この番組はやはり「現代」。ニッポンを主張する作品論もそこそこに、ニュースな話題に。今年、村上の少年像は、日本の現代アート史上最高額となる16億円で落札され、大きな話題となったが、昨今の不景気はアート界も直撃したという。
「完全に動かなくなって、株価より悪い。オークション(の落札額)も下がる一方で、悪いニュースばかり」(村上)。村上自身もこれまではアートバブルであり、自分自身も投機の対象にされたとの認識を強くもっているようだ。
「バブルがはじけて、ホッとしている」
「仕掛け人が値段を作っていくというのを、自分が身をもって体験した。自分がそのなかに乗っちゃってるという空恐ろしい感じが、バブルがはじけて、解除されて、ホッとしている」
その一方で、バブルは困るが、アートとビジネスは切り離せないというのが村上の持論だ。「たとえば宮崎駿さんにインタビューしたら『マーケティングは考えてない』と言うと思います。でも、優れたクリエイターはどこかで(アートとビジネスの)バランスをつくってる」「その時代に即した芸術を考え、現代と呼吸を同期させて、ビジネスもしっかり考えてやって行くことだ」
「芸術家は自分の好きなように自由に描いて、お金には無頓着というイメージが日本では強いが、そうではいけないと!?」。芸術家はそういう人たちであってほしそうに、夢心地な目で国谷キャスターが聞く。
「そうですね。絶対、そうであってはいけない」と村上は力を込める。誰も見たことのないようなアートをつくるには、膨大なコストの管理、大量のセッティングが必要になる――。もちろん、これは現代美術のひとつのあり方には違いないが、力説する村上に対して、聞き手の頷き方や合いの手は心なしか、浅めなようだった。
ボンド柳生
*NHKクローズアップ現代(2008年11月11日放送)