都内の私立大学4年のY君はすでに不動産会社の内定をもっている。が、就職活動をやめられない。
飛び込みで会社訪問をするし、毎日のように他の企業から誘いの電話が掛かり、面接にも出かけて行く。もっといいところがあるかも、という迷いがあるのだ。また、「あっさり内定が出されると、本当に自分を必要としているのかと思う」と言い、「そういう社は、あまり、いい会社というイメージがない。バイトの面接と変わらない」と苦笑する。
「ぜいたくな悩み」
そして「納得の行く企業にはまだ出会えていません」(ナレーション)。内定を得ているほかの学生たちも「これでいいのかという漠然とした不安がある」「自分が思い描いていたところとは違うかなと悩んでいる」ともらす。こうした不安を感じる多くの学生が就職活動になかなかピリオドを打てない現象を、『内定ブルー』と呼ぶのだそうだ。
数年前までの就職氷河期とは様変わりで、国谷裕子キャスターならずとも、「ぜいたくな悩み」と言いたくなる。企業側、学生との双方と接する機会が多いというスタジオゲストの真山仁(作家)は、学生たちの経験不足を指摘して次のように話す。
「人間は後戻りできない選択をずっと死ぬまでやり続ける。学生たちも卒業するまでに何度もそれを経てくるべきだけど、もしかしたら内定が人生最初の選択で、よけい不安が大きいのではないか」
『内定ブルー』現象の背景には団塊世代の大量退職と少子化がある、と番組は説明する。
「人材より人手」(真山の表現)を欲しがる企業は、ともかく早めに内定を出して学生を集めにかかる。大学は大学で経営上、入学志願者数を確保するために就職内定率を少しでも上げたいし、大企業には何人でも押し込みたいと考える。真山は「企業、学生、大学が、それぞれの弱点を気にしてしまって身動きがとれない三すくみ状態」だと語る。
「三すくみ」は打開できるか
『三すくみ』 がもたらす、内定の早期化、就職活動の長期化は、教育面に弊害を及ぼすことになる。学生はおちおち勉強できないし、卒業研究、論文にかける時間を大幅に削らざるを得ない。国立大学協会の副会長は「落ち着いた形で勉強する場が失われてきている。ゆゆしき状況で日本にとって大きな損失」と大いなる不満を口にする。企業側は「大学時代にやってきたことと我々が望んでいることにギャップがある。われわれが最先端のものづくりをするための基礎知識を、入社後、改めて教えなければならない」(神戸製鋼人事担当者)と述べる。
「三すくみ状態の打開策」を国谷に尋ねられた真山は、1人ひとりが自分のやっていることに自信を持つことが大事だとし「企業はフライイングせずにじっくり学生を見て人材を獲得し育成する、大学は最後まで勉強をちゃんと教えて学生を世の中に送り出す、学生は20年生きてきた自信を持って何になりたいか自問自答しながら企業を選ぶこと」と言った。
さらに真山は、今は日本が自信を失って迷っている時代だとして、「就職活動から、日本がもう一度、自信を取り戻すきっかけを手に入れることになるかもしれない」と続けた。が、そこまで期待をかけるのはややムリがあるように思われた。
アレマ
*NHKクローズアップ現代(2008年10月16日放送)