緒形拳「最後のドラマ」を彩るもの

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   <風のガーデン>老医師、白鳥貞三を演じている緒形拳が10月5日に亡くなって、直後の9日から放送開始。だから、ドラマに入り込むというより、つい画面の中の緒形拳の姿ばかりを追って見てしまった。

   この人はもうこの世にいないんだな、と思うと、何とも言えない気持ちがした。肝臓がんだったと聞いて、「そういえば顔や手が黄色っぽいな」とか、彼が飼い犬について「あいつはもう長くありませんね」というセリフを言う時、どんな思いだったのだろう、などと考えてしまった。

   緒形拳の老医師に訪問診療されている認知症の老人役は大滝秀治。出番は少なかったが、やっぱりうまい。同じ質問を繰り返す老人に、丁寧に受け答えする貞三の姿。地方の町にいかにもありそうな温かい人間関係と、老老介護ならぬ老老診療の様子が思い浮かぶ。

   貞三の息子、貞美(中井貴一)は東京の大学病院で麻酔科医をしている。准教授でもある。若い歌手、氷室茜(平原綾香)とは楽しい関係、また看護師の内山妙子(伊藤蘭)ともただならぬ関係にあるらしい。でも、放送が始まる前にあちこちに書かれていた「派手な女性関係」という感じはしない。腕はいいが高慢ではなく、学生の教え方も上手で、見る前にイメージしていた嫌味な男では全然ない。

   忙しく活躍していた貞美に病気が見つかる。血液検査のデータを見て愕然。自分で腹部エコーをとり、映像を見る貞美の表情、その無言の演技はいかに。うーん、可もなく不可もなくというところか。本当の病気である緒形拳に気をとられて、ドラマの中で致命的な病気になる中井貴一の印象が薄れてしまった。中井さん、ごめんなさい。

   貞美の娘、ルイ(黒木メイサ)と、息子、岳(神木隆之介)は祖父の貞三と一緒に住んでいる。父の貞美とは会えない事情があるらしい。ルイは「風のガーデン」と呼ばれる自然を生かした英国風の庭を造っていて、造園家として雑誌にも取り上げられている。

   岳は知的に遅れがある14歳。全体のナレーションは岳だ。神木くんがサラッと自然体なのが良い。「北の国から」の吉岡秀隆の打ちひしがれたようなトーン、しかも「何々であり……」と妙に余韻を持たせて止めるナレーションには、ちょっと「何だかなあ」という感じがしていたのだ。

   岳のピアノの調律、貞美のチェロ、そして茜のフランス語の歌。音楽へのこだわりが全編に流れている。平原綾香の歌う主題歌「ノクターン」はとても美しい。富良野の自然と並んで、このドラマを彩るもう一つの美しいもの、それは音楽だ。

カモノ・ハシ

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