(C)2008『アキレスと亀』製作委員会
<アキレスと亀>富豪の家に生まれた真知寿は、何不自由なく大好きな絵だけを描いて少年時代を過ごした。しかし、事業の失敗によって両親が自殺。一変して、過酷な環境に身を置かざるをえなくなった彼は、それでも画家になるという夢を捨てずに生きていた。そんな真知寿は、彼のよき理解者である幸子と出会い、結ばれる。
アキレスと亀とは、有名なゼノンのパラドックスのひとつで、足の速いアキレスは足の遅い亀に永遠に追いつけないという話だ。この映画は北野武監督が様々な矛盾と葛藤した上でできた1本だろう。『TAKESHIS'』『監督・ばんざい!』など、あまりに個人的でアート性の強かった前2作が酷評され、創作と興行の狭間で揺れた北野監督は、それらの形式を踏襲しながらも一般受けを考えて本作を撮った。
主人公の真知寿が監督自身を投影しているのは間違いない。周りを全く省みず、絵に没頭する様は、研ぎ澄まされた刃物のように観客の背筋を凍らせる。しかし、健気に夫を支える幸子の存在が、えも言われぬ安心感を与える。老年の2人のコミカルな創作活動など、狂気と愛情のコントラストはとても鮮やかだ。芸術家の生き方というのが主題ではあるが、そこに夫婦愛を絡ませることで、観賞しやすく、メッセージも伝わりやすい映画になっている。
いつまで経っても夢は叶わず、多くの大切な人を亡くしていく真知寿は、絶望のどん底にいるように見える。しかし同時に、好きなことをし、好きな人と一緒にいる彼は幸せに満ち溢れているようにも見える。この映画の、そして人生というものが抱えるパラドックスは奥が深い。
ジャナ専 ぷー(JJC漫画研究会)部長
オススメ度:☆☆☆☆