少ない資金でハイリターンが狙えるFX取引と呼ばれる金融商品が世代を超えて人気を得ている。当然ハイリスクなのだが、とんでもないところに落とし穴があり、被害が続出している。
「脆弱なシステムのまま走りだした」
番組は、「脆弱なシステムのまま走りだしたツケが回ってきた」と指摘し、それが被害拡大を許した、と金融庁の甘さを批判した。
ところが最近、取引上のリスクとは別に、取引業者の破たんで預け入れた資産が返ってこない被害が増えているのだ。
番組に登場した神奈川県在住の54歳の主婦は、子供の教育資金にと4年前からFX取引を始め、利益も毎月20万円から40万円に上り順調だった。
ところがある日、弁護士からの1通の手紙で愕然となった。取引業者が破産し、預け入れていた1289万円の資金は戻らないという知らせだった。この業者は、500人から集めた証拠金を違法に自分のFX取引に流用し、破たんしたのである。
1998年の取引自由化後も、ほとんど野放し状態だったことから悪質業者も続々と参入。当初から、取引上のハイリスクよりも、業者による証拠金の不正流用などの被害が多発した。
取引業者の財務の安全性や証拠金の管理体制のチェックの甘さを指摘された金融庁は2005年、金融先物取引法を改正し、FX取引業者を登録制にするなど規制の対象にした。
しかし、その一方で世の中の規制緩和の動きを止めないようにと、書類審査だけの甘いチェックにしたために、先の業者のように規制の網をかいくぐる業者が相変わらず横行しているのが現状のようだ。
「監視の目が行き届く体制ではない」
被害の拡大に証券取引等監視委員会はこのほど、職員200人を総動員してFX業者73社の立ち入り検査を行った。その結果、ウソの申請書や架空売買、業者が自分で行っていた取引の損失を顧客の口座に付け替えるなど、6割の業者に違法が見つかった。このうち悪質な10社に対し登録を取り消している。
国谷キャスターの「監督官庁は、何故こんな形ばかりの規制をしていたのですか?」に、取材した記者は「報告書の提出を義務付けておけば、後でチェックできると甘く見ていた。脆弱な体制で走り出したツケが回ってきたのです」と指摘した。
また、記者は「証券取引等監視委員会のスタッフは総勢200人。監視対象は9036社にのぼり、とても監視の目が行き届く体制でない」と……。この問題に詳しい坂勇一郎弁護士は「これからは顧客の預けた財産を信託銀行に預ける『信託保全』で、きちんと確保する制度を作るべきだ」と指摘した。
どの官庁も似たり寄ったりだが、新しい制度をスタートする際、いつも業者優先で利用者を保護する法的環境づくりは後回し。これもその典型と言いたくなる。
モンブラン
<メモ:FX取引>『外国為替証拠金取引』のこと。10万円程度の証拠金で10倍から20倍の取引ができる。故・橋本元首相の指示で始まった『日本版金融ビッグバン』で、銀行に限られていた外為取引が1998年に自由化されて始まり、現在では約120社の業者がひしめく。主婦から学生、退職金の運用に使う高齢者まで、業者に預けられた顧客の資産は6900億円に達するという。
*NHKクローズアップ現代*NHKクローズアップ現代(2008年10月6日放送)