国谷裕子がいつも通りスタジオに立ったが、何かが違う。バックの壁も中央のテーブルのサイドも落書きだらけ。全国各地の落書きを写し取って再現したものだった。すさまじい。「何か落ち着かない」と国谷はいう。
この夏、総武線や新幹線の車体の落書きが大きな話題になった。いま福岡が凄まじい。飲食店、駐車場の壁からシャッター、民家の側壁にまで至る。住民は必死に消しにかかっているが、いたちごっこ。
警戒弱い、と外国人グループも
描かれているのは、絵とも文字ともつかない「タグ」と呼ばれるもの。あれらはいったい何なのか。カメラがそれを突き止めた。
落書きをしていたという人物が語る。「個人、あるいはクルーの名前です。クルーというのは数人の集まりで、全国に100以上ある」という。「描いたものは、見られないと意味がない。だから、目立つところ、すぐには消せないところ、危険なところに描いて、クルーの存在をアピールして競っている」
たしかに、7月新幹線車両にあった「Hack」と読める落書きは、渋谷や世田谷で見つかっているものと同じだった。クルーが描き手と見張りに分かれて行動している様子を写した防犯カメラ映像もあった。
さらにこれらをまた、ネットで評価するサイトがある。「毎朝見てます」「興奮しました」などという書き込みが、また新たなエネルギーになっているらしい。
驚いたことに、昨年1月にあった地下鉄千代田線の落書きは、外国人によるものだった。今年6月、オーストラリア人4 人が空港で入国を拒否されてわかった。落書きの下絵と道具をもっていたのだ。
外国では、自分たちが落書きする様子を写したDVDや写真集を売って、ビジネスにしているグループもあるという。日本は、警戒が弱いというので、ねらい目になってもいるらしい。
落書きと治安の関係は…
落書きを追究している小林茂雄・武蔵工大准教授がいう。「1970年代にブロンクスの若者が始めて、80年代にかけてアートとしてもてはやされた。これと状況が似ている」
国谷が「落書きがあると治安が悪くなるといわれるが‥‥」と聞く。
小林准教授は、「本来は関係がないのだが、住民が落書きを避けるようになると、犯罪が起こりやすくなる。スラム化が進むと、街が壊れてしまう」という。「日本では、はじめは罪悪感があったが、いまは軽い気持ちでやっている」
しかし、被害を受ける側は大変だ。6年前凄まじいことになったのが岡山だった。岡山市民はこれに「一斉消去」で対抗した。ボランティアを総動員して、目標にしたエリア内のすべてを消してしまうのだ。これを次々に実行した。「すぐ消さないとだめ。いまは10分の1になった」
小林准教授は、「アメリカ全土で年間数百億円かけている。すぐ消すことが、みんなで守っている、管理されているということを示すことになる」という。だが、今後については、「若い世代も加えて、議論することが必要」と、いささか頼りない。
要は、行政と警察がその気になるかどうかだろう。防犯カメラも駆使して、とにかくふん捕まえる。消去費用を払わせる。だめなら器物損壊罪で刑務所にぶちこむ。NHKでは、そこまではいえないか。
ヤンヤン
<メモ:落書き対策・米国の例>番組が紹介した米サンタアナ市の例が面白かった。24時間の「落書きホットライン」があって、市民から通報を受けると、あらゆる塗料・染料に対応できる市の担当者が48時間以内に消す。別に落書き専門の警察官がいて、常時パトロール。捕まった少年らは、200時間の「落書き消し作業」が課される。 「消すのがこんなに大変だとは思わなかった。二度としない」と、少年の1人がいっていた。
*NHKクローズアップ現代(2008年9月17日放送)