<テレビウォッチ>変容する柔道に対応できずにベテランが挫折するなかで、「柔道」にも「JUDO」にも順応できる新世代が躍り出た。100キロ超級を制した石井慧(21)。
その発する言葉がことごとく世代交代を思わせる。決勝戦を制したあと、「柔道最高」を連発していたが、「プレッシャーは?」と聞かれて、「オリンピックのプレッシャーなんて、斎藤先生(監督)のプレッシャーに比べれば、屁のつっぱりでもない」
「いま何がしたいですか?」には、「いましばらく、遊びたいです」といってから、「あ、練習もしたいっす」。
これに解説の篠原信一(シドニー銀)が、「石井はしゃべらない方がいい」といっていたが、この篠原の感覚がまさに旧世代。石井はすでに一歩先をいっている。
その最たるものが、「きれいな一本勝ちが見たかったら、体操をみてればいい」「柔道はルールのある喧嘩だ」というヤツ。柔道の国際大会の現状を的確に言い表している。ポイント制の浸透で、世界のあらゆる格闘技のワザが入り交じって、柔道は美しくなくなっている。重量級ではとくにそうだ。しかし石井は、抜群の体力で攻撃をしのぎながら、相手が疲れたところで一本というのができる。事実そうして金メダルを獲った。
表彰式後のインタビューで、「今日やった感じでは、高校時代の世田谷学園の方が全然強かったです」と平然という。4年前の全国高校選手権で、石井の国士舘高校は世田谷学園を破って優勝している。
石井は19歳4か月で全日本を制し、山下泰裕の最年少記録を抜いた。そのときも、「この歳で優勝しているのは、山下先生だけで、山下先生の記録(9連勝)を抜きたいです。生きてるうちに記録は作っておきたい」と言い放っている。
その石井は、優勝を決めた直後、カメラに向かって、「ハッスル、ハッスル」をやってみせた。「あれがよかった」と、ハッスルの元祖、元柔道選手でプロレスラーの小川直也(バルセロナ銀)はいう。石井は小川の道場で修業もしていたのだ。小川は、「言いたいこと言っとけ、若いんだからいいよ、といってる。おれのときとは時代が違う」という。
きわめつけが、優勝後のひとこと。「金メダルが内柴先輩の1個だけというのを、自分は幸福に感じてた。自分が目立てると思って」
スタジオは大笑いだった。松尾貴史が、「あの状況のなかで、ユーモアみたいなものが出てくるのはいいですね」
先の小川は、「いまはまだスタミナで勝っている。後はワザだ」という。きびしい4年間の始まりである。