「(この人は)漁に出られないんだよ!?」。太田総理は隣の女性を指さしながら叫んだ。そこには「漁師のおっかあ」であり、また全国漁協女性部連絡協議会の熊谷ヒサ子理事が座っていた。彼女は石油価格高騰によって、「夢も希望もない」「生きるか死ぬか」に追い込まれた漁師の窮状を訴えに来たのだ。
そんな漁師たちを救うため、ソーリは「ガソリンの値段を130円(重油は60円)に値下げします」法案を番組の小さな国会に提出した。政府がいったん石油を買い上げ、差額分を負担して国民に安く売れ、という。ガソリン、物価関係のマニフェストはこの番組でたびたび登場するが、今回は"漁業"が新機軸である。
先月(7月)末、政府は総額745億円の漁業者向け緊急対策を発表した。燃料費上昇分の9割を補填したり、省エネ機器を買う際には無利子で融資したり、といった内容だ。ところが、それも5人以上のグループに限るという条件がついていたり、申請書類も複雑。そのカネは使いづらい、と熊谷は東北弁でまくし立てる。サカナの絵入りTシャツを着て、頭にはねじり鉢巻の彼女は、いつもグレー系の地味なスーツの総理を見た目で圧倒し、発言回数、声量でも主役級の存在感を発揮した。
これは番組的に反対派もやりにくそうだなあと視聴者的に呟いたが、思いのほか元気である。「石油が上がって可哀相だというのはわかるけど、値段は下がりませんよ。政府が介入するのは無理」と池田清彦・早稲田大学教授が冷水を浴びせれば、総理の宿敵ケビン・クローンは「石油高騰は、(脱石油のための)痛みを伴う構造改革。日本は代替エネルギーを追求するべきだ」と吠える。
これに対して、「そんな悠長な話じゃないよ」とソーリは予想通りに激昂。冒頭の台詞となったのだが、カリフォルニア州弁護士のケント・ギルバートはさらに過激だった。「(代替エネルギーが普及するまで)経過措置は必要でしょう。でも、政府が石油買って130円でいつまで続けるの? 言っときますけど、ワタシそんなにサカナ食べないのよ。なんでワタシの税金でみなさんが安くサカナを食べるんだよ!?」
「それはあんたの勝手でしょう」と熊谷は呟いたが、たしかに反対派には勢いがあったように見えた。それでも、討論会の最後になって、熊谷が「日本のサカナを守ってほしい!」と拳を突き上げると、その願いを小さな国会はかなえてあげたのだった。結局のところ、バーチャル国会では誰の腹も痛まないのだ。
ボンド柳生
*太田光の私が総理大臣になったら…秘書田中(日本テレビ系)