「イライラから家族、とくに主人に当たってしまうこともあり……セキが出れば肺に転移したのではとか、腰が痛ければ骨に転移したのではと、再発が頭から離れない。(薬の副作用について)のぼせ、わーっと暑くなって汗だらだらとか、それが気になると動悸がしてきたり、かなりきつい。体温が急に上がることがあって、調節できるように脱ぎ着しやすい服を着ている」
病気と闘うコツと勇気を
乳がん手術をした患者の体験談だ。彼女の向いには聞き手の女性とカメラマン。2人はインタビューで患者の"語り"を、それも映像つきで、引きだしているのだ。今、こうした"語り"を集めてデータベース化する取り組みが進行している。医師、看護師、患者たちのグループが、前立腺がんと乳がんの患者、それぞれ50人に聞き取りをし、医師のチェックを受けたうえで、来年(2009年)4月からインターネットで公開しようとしているのだ。大きな悩みと不安を抱える多くのがん患者の参考になれば、と考えてのことである。
スタジオゲストの山口建・静岡県立がんセンター総長は「インターネットを使って患者さんが患者さんに語りかける点がユニーク。科学的に検証して信頼性を高めて行こうとする大事なプロジェクトだ。患者さんが病気と闘うコツを学べて、勇気を与えられる」と、この試みを評価する。
実は、イギリスではすでに01年から、データベース化した患者の"語り"を、インターネットで公開しているという。しかも、さまざまながんだけでなく、エイズや糖尿病など42の病気を対象に、1500人の"語り"が用意されており、それが患者の救いになっている様子が報告されるのを聞くと、日本は遅れているんだなあ、と嘆きたくなる。
日本の「遅れ」の理由
「遅れ」の理由を国谷裕子キャスターが尋ねると、山口総長は「医師が中心だった医療が、20世紀終盤になってようやく患者参加型の医療が始まった……それと、私たちを含めて病気の研究はやってきたつもりだけど、病気を持った人間である患者さんの研究はほとんどなされてこなかった。それが今ようやく始まったということ」だと言った。
イギリスでの"語りデータベース"制作には10億円の費用を要し、6割が寄付、残りが国の補助で賄われているそうだ。日本でのデータベースづくりに関して問われた山口総長は、役所のサポートが必要としつつも、患者が自ら声を上げることが望ましいと語った。参院本会議で自らがんであることを公表してがん対策基本法の必要性を訴えた、今は亡き山本孝史議員の姿が目に浮かんだ。命をかけないと国は動かせないのだろうか。
例によって国谷キャスターが早口で前説を述べたが、この夜ほど番組内容のほぼすべてを言いつくした案内をほかに知らない。あとを視聴しなくてもいいくらいだった。来週から4週間、番組が休みであることを伝える声も弾んでいた。
アレマ
*NHKクローズアップ現代(2008年7月24日放送)
クローズアップ現代は、北京オリンピックなど夏の特別編成のため休止、次回の放送は8月26日。