急激に変わる中国をどう読むか。シリーズ2回目は、日本企業の選択を取り上げた。
国力が伸びればコストが上がるのは当然の帰結とはいえ、利益を確保したい企業は、新たな選択を迫られる。すでに始まっているのが、生産拠点の他国へのシフト。ナンバーワンがベトナムだ。人口8500万人、半数が30歳以下という若い国だ。
ベトナムでも賃上げスト
この3年で日本企業は倍増して600社になった。家電、カメラ、バイクなど日本を代表する企業がずらりとある。そのひとつ、ハノイのミシン・メーカーは、1990年代中国で生産した低価格商品を欧米で売った。が、「もう中国ではできない」という。
ベトナムは賃金が月80ドルで、中国の3分の2。従来と同じ価格で売るには、それだけでは足らず、部品の現地調達率のアップにも挑む。国営の加工工場でも品質アップが課題だ。「ひとつひとつ教えていかないといけない。中国でやってきたことをまた一からです」と工場長はいっていた。
だがそのベトナムはいま、年率25%という猛烈なインフレ。投資資金流入の結果でもあるが、ために企業での賃上げストが頻発していた。ここもやがて、中国を追うことになるとの予感。
ベトナムの隣国、ラオスへシフトした企業もあった。人口はわずか580万人でほとんどが農業、優しい国民性で知られる。賃金はさらに安く月50ドルだ。ビエンチャン近郊に工場を作ったアパレルメーカーは、「人はいいのだが、ハングリーさがない」という。従業員がなかなか定着しないのだという。
しかし、ラオスはまた中国とも国境を接する。その中国からも企業が進出していた。ねらいはむろん低賃金。バイク工場の社長は、「日本人には負けない」と豪語していた。
「競争力あるモノづくりがカギ」
野村総合研究所の此本臣吾・執行役員は、中国の企業環境の変化とリスクについて、「労働者の権利意識が高まり、労務管理が難しくなった。過去の暴動などの懸念と人々が声をあげ始めていること」という。
一方、外国へシフトする力のない中小企業は、中国内部での生き残りを模索していた。5年前上海に縫製工場をひらいた経営者は、内陸での拠点をさがして、すでに20か所を歩いていた。しかし、「上海から離れると賃金は下がるが、物流コストが高くなる」と、まだ適地がみつからない。「失敗すれば倒産ですからね」
国谷裕子は、「世界の工場としての中国の役割は続くのか」ときいた。
此本執行役員は、「マーケットは大きいし、日本は少子高齢化だから、量産力をもつには中国はいいパートナーだ。競争力のあるモノづくりがカギ。ただ、技術の漏洩には注意を」とクギをさした。
中国が成長したことで、もう簡単に甘い汁は吸えなくなったということ。生き残りをかけた模索も、結局は本来の力が問われることになるのだろう。
ヤンヤン
※NHKクローズアップ現代(2008年7月9日放送)
<メモ:中国政府の政策転換>
中国に進出している日本企業は2万社。企業の大小によらず、これまでは安い労働力のメリットを生かして利益を上げてきたが、急成長のなかで賃金が上昇し、人民元も高くなったところへ、中国政府が、政策転換に入った。外資優遇税制の撤廃、従業員の社会保障費の一部負担などで、コストははねあがる。政府はハイテク企業を優遇する一方で、労働集約型企業にきびしい。