ちょっとしたミステリーである。アメリカの養蜂家たちの飼うセイヨウミツバチが突然、大量に『失踪』し、死骸も見つからないというのだ――この現象はCCD(蜂群崩壊症候群)と呼ばれる――2年前、最初に異変が確認されたフロリダ州のある養蜂家は、昨2007年、8割の7200万匹を失った。「お手上げだよ」と嘆く。
受粉に影響 食料危機招く恐れ
国谷裕子キャスターによると、アメリカと日本の消費者が口にする農作物の3分の1はセイヨウミツバチの受粉に頼っている。また、牛のエサとなる牧草のタネを作る受粉も、セイヨウミツバチなしでは難しい。セイヨウミツバチの減少とその借り出し価格の上昇は農家の負担を増すばかりでなく、リンゴやチェリー、カボチャ、ニンジン、そして牛肉や乳製品などの高騰につながり、食料危機を招く恐れすらあるのだ。
農業大国にとって大ごとで、アメリカ政府は、CCDの原因究明に乗り出す。研究チームはまず、巣箱に残ったセイヨウミツバチのDNAと、正常なセイヨウミツバチのそれとを比較してみる。その結果、判明したのは、CCDと思われる方の免疫力が著しく低下していて、ウイルスに感染しやすく、発症すると数日間で死亡することだった。
研究チームは次に、カリフォルニア州のアーモンド農園に目を向ける。同州はアメリカのミツバチの半分を集めているからだ。一面、アーモンドのここでは、4キロしか飛べないミツバチのエサはアーモンドの花粉だけになる。このミツバチと、5種類の配合花粉をとるものとを比べると、前者の寿命(約3週間)は後者の半分に過ぎないことがわかる。女性スタッフは、「人間がピザを食べ続けるのと同じ。十分な栄養をとれないの」と言う。
「ミツバチは暮らしにくくなった」
さらに、巣箱にあった花粉を調べたところ、予想を上回る50近い数の農薬が発見される。なかでも、ネオニコチノイド系の殺虫剤は害虫を駆除する力がきわめて強く、大規模農園の効率的な生産には役立つものの、一方ではミツバチの神経を破壊して方向感覚を狂わせ、巣に戻れなくさせる可能性をもつ劇薬だった。
以上がミステリーへの「一応の回答」である。スタジオゲストの中村純・玉川大学ミツバチ科学研究センター教授は、「ストレスが思い浮かんだ」と述べる。どうやら、日米養蜂事情の違いがポイントらしい。(1)日本の養蜂家は上限100箱くらいまでの巣箱をよく面倒みているが、アメリカでは1人1000箱が普通で面倒みきれない(2)あちらは花から花への移動距離、時間が長くストレスがたまる(3)本来、1つの場所に巣をかまえて生活し、3、4キロの範囲にある植物の花を使い分けて生きるのに、アメリカでは同じ種類の花粉しか食べられず、免疫力が低下し、寿命を縮めている、等々。過酷な労働と環境の悪化がストレスをかけているようだ。
アメリカのセイヨウミツバチにとって悲劇的なのは、近年、海外でアーモンドやメロンなど、ぜいたく品の需要が急増し、もっと働かされかねないことだ。そのための研究も進められている様子を番組は紹介する。
中村教授は、「ミツバチは暮らしにくくなった、と思っているでしょう」と苦笑し、「消費者に、ミツバチと共存しているんだ、という意識が出来てくるといいと思う」と結んだ。
同じ働く者として、身につまされる30分弱であった。
アレマ
*NHKクローズアップ現代(2008年6月12日放送)