最初は上戸彩の幼稚さに「あーあ」と思った。しかし実際には、24~25歳で弁護士になる人もいるわけだ。可愛い女性もいるだろうから、ちっとも不思議ではないのだ。あの「あーあ」感は、案外、ドラマ進行のための意図的な演出だったのかもしれない。うーん、脚本監修は「ドラゴン桜」「アンフェア」の秦建日子だからなあ。
上戸彩扮するなりたてホカホカの弁護士、堂本灯(どうもと・あかり)が勤務するのは大手法律事務所のプロボノセクション。「プロボノとは、公共の利益のために社会奉仕をすることで、低報酬で社会的・経済的な弱者を守るというこの活動が、近年、弁護士界で義務化され始めている。」(番組公式ホームページより)のだそうだ。
ちなみに、弁護士数400人近くを擁する某大手法律事務所の「業務分野」には、一番最後に「公益活動」というのが掲げてあるけど、これがそうなんでしょうね。
ところで、弱者を救おうという熱意に燃えた若い弁護士が、すべったり転んだりしながら成長してゆく心温まる話かと思うと、とんでもない。すべって転びはするが、心は温まるどころか、冷える。扱っているテーマがあまりに重く、暗いからだ。
たとえば第1話。一見、「夫が給料を入れず、家庭をかえりみない」よくある離婚話、しかし実はエリート社員のDV、かと思いきや、真相は父親の幼い娘に対する性的虐待だった。灯にはDVまでしか見抜けなかったのも無理はない。
児童ポルノが問題になっているが、子どもへの性的虐待の加害者はじつは身近な人間であることが少なくないと言われる。疑うことも、意味を認識することもできない子どもに対する虐待は、一点の弁護の余地もないと私は思う。放送後、たまたまオーストリアで娘を24年間監禁していた父親の事件が報道され、身の毛がよだった。本質は同じだ。
また、第3話では、破産手続きで救済しても、性懲りもなく女に貢いで借金を重ねる男。反省するどころか居直って弁護ミスだと騒ぎ立てる始末。「弱者」は必ずしも善良ではない。愚かさと図々しさに歯噛みしながらも、クライアントの最大の利益を図る。それが弁護士というものだという現実が、容赦なく灯を打ちのめす。
一方、メイン業務である企業部門の花形、工藤怜子(りょう)は「クライアント側が勝つためには何でもやる。それが弁護士の正義です」と言って、はばからない。堂本、工藤が代表する2つの立場を同時進行で対比できるのは、プロボノセクションという設定ならではだ。そこが新しい。放映中の「7人の女弁護士」や、今までの「離婚弁護士」「マチベン」など片隅の小さな事務所を舞台とした弁護士ドラマより、リアリティを感じる。
母親(かとうかず子)の明るさはわざとらしいが、屈折した先輩弁護士、杉崎(北村一輝)と、冷たそうなパラリーガル(法律事務職)の倉木(戸田菜穂)が微かににじませる抑制した優しさが救いか。
視聴率的には苦戦しているようだ。見終わっても予定調和的なスッキリ感が得られないせいかもしれない。しかし、視聴率至上主義に負けずにこういうドラマも続けてほしい。
※ホカベン 日本テレビ 水曜夜10時~