クローズアップ現代は、中国・四川大地震の緊急特集で、現地の状況、救援態勢、地震の解明、建物の耐震性、そして政府の姿勢などを、総合的に追った。
2008年5月12日午後、四川省都・成都の北西約100キロを震源地とする地震が起き、一瞬にして瓦礫の町となった場所も出た。周辺の道路も寸断され、各地で集落が孤立。2日後になってようやく救援の兵士たちが現地に入ったが、建物のほとんどが崩壊している、とだけで詳細はいぜん不明だ。
威信にかかわる
NHKはすでに記者が現地に入っていたが、救援の手が不十分で、生き残った住民はみな自力で雨をしのいだり寝具を調達していたりしていたという。「いま最も必要なものは?」という国谷裕子の問いかけに、「食糧と水」と答えていた。
一方中国のテレビは、崩れた建物の下から救出される子どもの姿などを流し、またいち早く現地入りした温家宝首相の動静を伝えている。とくに温首相は、地震発生の1時間後には北京を発つという異例の素早さで、現地でも「みなさんの苦しみは私たちの苦しみだ」などと、はげまして歩いている。
こうした中国政府の反応を、NHK国際部の奥谷龍太記者は、(1)五輪をひかえて、対応を誤ると威信にかかわる(2)チベット族地域という不安定要素(3)大事故での対応の遅れで批判された過去の轍を踏まない、など政府の並々ならぬ危機感を表していると分析した。
四川省の断層は従来から知られており、すでに静岡大の林愛明教授が調査を行っていた。中国出身の林教授は、「竜門山断層(長さ300キロ)が動いた可能性が高い。現地は、建物の造りが弱く、調査を防災に役立てたいと思っていただけに、口惜しい」といっていた。
「手抜き工事ではないか」
スタジオで、防災が専門の東京理科大学の北村春幸教授は、現地の写真を見て、「古い建物でレンガの壁が多い。鉄筋とのつなぎも悪い」と指摘。たしかに、崩壊した建物でも鉄筋部分が残っているものがある。「日本でも30年かけて徐々に耐震基準を上げてきたんだから」といった。
耐震性の問題では、記者会見で、「学校などが崩壊しているのに、政府の建物だけ残っているのはなぜか」と鋭い質問も出ていた。また、ネットでも「手抜き工事ではないか」などの批判が出ているという。
中国政府の姿勢は、たしかに気になる。中国の報道陣も、現地入りは2社だけだという。どうやら基本的な体質は変わっていないようだ。
日本のメディアも、事故の詳細にどこまで食い込めるか。追い出されては元も子もないから、政府とのやりとりに神経を使うことになる。現地取材陣も、きびしい日々になりそうだ。
ヤンヤン
<メモ:中国・四川大地震>中国・四川省で起こったマグニチュード7.8の巨大地震。被害の全容は、まだ明らかではない。が、判っているだけでも、死者1万5000人近く、倒壊家屋364万棟、生き埋め2万5000人など。また規模も、内陸地震としては世界最大になるといわれる。 震源地は省都・成都の北西約100キロ。最も近いブン川は、チベット族など少数民族が多く、またパンダの棲息地としても知られる。近くの都江堰は、2000年前の水路が世界遺産で、観光客も多い。
この地震は1500キロも離れた北京にまで届いて、大きな横揺れが約30秒も続いた。宮崎の地震が札幌に届いたようなものだ。これは、震源が10キロと浅かったため、地震波が弱まらずに長周期の揺れが遠くまで伝わったのだという(纐纈一起・東大地震研教授)。また、名古屋大学のシミュレーションによると、断層は長さ300キロに及び、逆断層が1分半の間動いた。そのエネルギーは、阪神・淡路大震災の30倍になるという。