「テレビ業界問答無用」は、今回をもって休載となります。今回は「問答」の形ではなく、筆者である民間放送局勤務野口和久さんのテレビ評を配信します。また、野口さんが1997年から発行していた「メディアリポート」が本になりました。野口さんが同リポートから抜粋した内容をまとめた「平成デジタル戦国史」(2000円=送料別=、アルフ出版)です。A5判340ページ。問い合わせはアルフ出版(03・3541・0004)へ。
「テレビが死んだ」日
2008年2月17日を忘れてはいけない。この日、テレビは死んだのだ。日本テレビが東京マラソンを中継した日である。日テレは公共の電波を使って"社内運動会"を流し続けた。厚化粧した女子アナたちが走るのでなく歩いてゴールインして泣きじゃくっているシーンを延々と放送した。
これはメディア、そしてマラソンへの冒涜である。女子アナたちは揃いも揃ってゴールしたあと、同僚アナらと抱き合い涙を流した。化粧が剥げるのを心配したほどだ。それを徳光アナらが「よく頑張った」と興奮気味にしゃべる。徳光も老いたり。国民の電波私物化の極致である。視聴率という毒が体中に回ってしまったようだ。こんなことやらせる会社も会社だが走るほうも走るほうだ。
他の民放テレビもおかしい。女子アナやお笑いタレントのゴールシーンを「感動のゴール」などと情報番組などで放送した。ザトペックや円谷幸吉が草葉の陰で泣いている。この国最後の護送船団方式は健在なり。衰退をいわれるこの国の新聞が健全なのは、他紙の批判を堂々と行なっているからだ。テレビにジャーナリズム性を求めるのは絵空事なのか。
かつて、フジサンケイグループの総帥、鹿内信隆はフジテレビの正月番組でお笑いタレントの明治神宮前からの中継シーンを見て「正月早々、明治神宮の前でなんと馬鹿なことやっているんだ」と激怒した。会社私物化など毀誉褒貶のあるワンマン経営者だったが品性と節度はあった。同じワンマンの日テレ、氏家議長は東京マラソン中継の高視聴率を喜んでいるだけなのか。
東京マラソンから3日後の2月20日、電通が「07年の国内広告費調査」を発表した。これによると、各媒体のうち、インターネット向け広告費が前年比24.4%増の6003億円で、雑誌を抜いてテレビ、新聞に告ぐ第3の広告媒体になった。こんな馬鹿なことを続けていたら「テレビがネットに抜かれる日」も近い。自業自得というものだ。