イージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突前後の状況がきのう(2月21日)、漁協側から明らかにされた。4隻いた漁船は、それぞれの判断で右に左に「あたご」を避けたが、その混乱で、僚船の「清徳丸」がレーダーから消えたことに気がつかなかったという。
4隻は清徳丸のほか、幸福丸、金平丸、康栄丸。いずれも同じ川津港の漁船で、同じ漁場を目指していた。金平丸は午前3時30分に、レーダーで「大きな船」(あたご)を確認していた。そして30分後、相手が進路を変えないため3隻は右往左往する。
先頭を航行していた幸福丸は、ルール通りに右へカジを切って「大型船」と行き違った。「あたご」のいう、「前を横切った漁船」が幸福丸らしい。これが衝突1分前だ。
その少し前、後方にいた金平丸は、いったん右へ切ったが、「大型船」が進路を変えないため危ないと判断して反転、左へ切って避けた。「あたご」が「緑灯を確認」というのと符合する。もう1隻の康栄丸はさらに進行方向の左手にいたので、金平丸と並ぶ形で南下した。2隻の行動は、GPSで全部確認できる。
そして突然、2隻の前方で大型船の灯りがついた。船足が止まったのを金平丸が確認。康栄丸と「船、止まったよ」「お前が前走って止めちゃったんじゃないの」と無線で交信していた。午前4時09分に「大型船」の後部を回り込んだとき、初めて自衛艦だとわかったという。
清徳丸は金平丸の前方にいたから、ルール通りに右へ交わそうとして、間に合わなかったとみられる。が、2隻の僚船は事故にまったく気づかなかったという。康栄丸の中ノ谷義敬船長は「灯りがついて航海灯が見えなくなったので、自分のことに気を取られて、清徳丸がレーダーから消えたことに気づかなかった」といっている。
これらをこれまでの「あたご」の証言と照らし合わせると、1点大きな疑問が出る。遠くの金平丸と直前を横切った幸福丸は確認していながら、その中間にいた清徳丸がなぜ見えなかったのかだ。しかも、位置関係から清徳丸は「赤灯」が見えたはずなのだ。
「漁船団がいること自体を見ていなかった可能性がある」と専門家はいう。
現地との中継でみのもんたが「こういうことって、よくあるんですか?」と聞いた。金平丸の市原義次船長は、「この辺りは海上自衛隊の演習の海域だから、自衛艦にはしょっちゅう出会う」といった。現に2隻は、右往左往のあとでも何事もなかったように漁場に向かっていた。日常茶飯事といっていいのだろう。
そして、僚船3隻は2時間後に、陸からの連絡で事故を知る。現場に戻ったのは事故から4時間後だった。
「仲間としてはつらいですね」とのみのの問いかけに、市原船長は「つらいね」とぽつり。
事故の究明はなお進むが、きのう現地を訪れた石破防衛相に中ノ谷船長は、「ウソをつかずに本当のことをいってくれ」といった。「誠実に訴えを受けてくれたので嬉しかった」とも。問題は、制服組のメンタリティーである。