「サラエボの花」
戦争とレイプ 妊娠した被害女性の愛と憎しみ

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   1992年、ユーゴスラヴィアが解体して行く中で勃発したボスニアの内戦は95年まで続いたが、死者は20万人、難民は200万人も発生した。イスラム教徒のムスリム人やセルビア正教徒のセルビア人、カトリック教徒のクロアチア人と宗教や民族が憎みあい反発しての戦いだ。驚くのは、この戦争で民族浄化という名目で2万人の女性がレイプされたことだ。この映画の主人公も、レイプされて生まれた娘を育てる母親の物語。2006年ベルリン国際映画祭で金熊賞(グランプリ)を受賞している。


   シングルマザーのエスマ(ミリャナ・カラノヴィッチ)は、12歳の娘サラ(ルナ・ミヨヴィッチ)と貧しいが幸せな生活を送っている。サッカーでも男の子に混じって頑張るサラ。今の楽しみは修学旅行。母の言うように父が戦死したのなら、シャヒード(殉教者)としての証明書が出て費用は免除される。だが母は証明書を取りに行かない。貧しい家計からは費用は払えず、さりとて証明書を役所に取りに行かず、母エスマは女友達を訪ねて借金をする。

   エスマには娘に言えない秘密があるようだと観客に分かって来る。バスで男の胸毛を見て気持ちが悪くなるし、得体の知れない集まりに参加して他人の悲しみを聞いている。心の奥に閉まっていた事実が徐々に明らかになる。

   何度もレイプされ、お腹が大きくなっても繰り返し兵士たちは襲ってくる。流産させようと腹を強打する。そんな甲斐も無く、子供は生まれる。顔も見たくない、そのまま何処かへ里子に出してと頼むが、看護婦が女の子ですよ、と連れて来たサラは可愛く、一度乳をやったら放せなくなった。遂には娘に告白するエスマの話は感動的だ。

   遠いバルカン半島の出来事に、日本はもとよりアメリカですら関心が薄かった悲劇。このようなレイプが日常茶飯事でその後遺症が未だ残っているというのだ。女流監督ヤスミラ・ジュバニッチはその頃10代で、集団レイプが行われた近所に住んでいた。戦争よりもレイプという行為の後に続く結果に関心を抱いて本を書いた。誰とも分からぬ父親を憎みながら、生まれてしまった子供への感情を持て余し、どう処理をしたらよいか悩む母親。しかし生まれた子供は可愛い、その矛盾。母親役のカラノヴィッチはセルビア生まれの50歳。「パパは、出張中!」や「ライフ・イズ・ミラクル」などのヒット作で世界的に知られる女優。サラ役のミヨヴィッチはサラエボ生まれの16歳、初めての映画だが熱演している。

恵介
★★★☆☆
「サラエボの花」(GRBAVICA)
2006年、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、オーストリア、ドイツ、クロアチア映画、アルバトロス・フィルム/ツイン配給、1時間35分、12月1日公開
監督・脚本:ヤスミラ・ジュバニッチ
出演:ミリャナ・カラノヴィッチ/ルナ・ミヨヴィッチ
公式サイト:http://www.saraebono-hana.com/
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