「呉清源 極みの棋譜」
淡々と描く天才が見つめた精神世界

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   「昭和の棋聖」と言われた天才棋士・呉清源。今年93歳で尚矍鑠(かくしゃく)としている。映画の冒頭では小田原の自宅で奥さんの和子さんと和服で寛ぐ呉清源の姿が紹介される。

(c)2006,Century Hero,Yeoman Bulky Co
(c)2006,Century Hero,Yeoman Bulky Co

   呉は1914年中国福建省に生まれ、父から囲碁を習った。1924年囲碁界の重鎮、瀬越憲作(柄本明)に招かれ、母と兄と3人で日本へやって来る。それから破竹の勢いで勝ち進む天才少年。19歳で木谷実とともに「新布石」を提唱する呉。青年になる頃に勃発した日中戦争。二つの祖国で悩み、そして出した結論は日本国へ帰化することだった。

   結核を患い療養、妻和子(伊藤歩)との出会い、戦争、新興宗教、交通事故を契機に勝てなくなる呉、親しい人(瀬越、木谷)たちの死などなど、映画は感情を交えず淡々と事実だけを追う。

   中国映画ながら全編を日本語のセリフで貫く。監督はチャン・イーモー、チェン・カイコーなどの第五世代を代表する田壮壮(ティエン・チュアンチュアン)。「青い凧」などの作品を通して日本にもファンが多い。囲碁好きの田は、精神世界の中で囲碁の世界を極める呉に魅かれたと。呉は自伝の映画化は恥ずかしいが、映画を通じて碁への関心が広がればよい、とOKしたと言う。

   呉に扮するのは「百年恋歌」の台湾の俳優チャン・チェン。メガネをかけ坊主頭の神経質な表情で、日本語のセリフを流暢にこなしている。柄本明の瀬越先生は少し重すぎる感があるが、後年碁が打てなくなったと自殺するのだから、そういう人柄だったのかも知れない。

   全体的に暗い画面で、忠実に歴史を追う。例えば本因坊との「打ち込み十番碁」で勝利する高揚感だとか、戦後の苦しさや貧乏から脱出しての豊かな暮らしとか、サクセスストーリーで観客のカタルシスを覚えさせるような描写は全く無い。むしろ新興宗教の教祖からの使命が達成できず自殺を図るとか、タクシーを降りてオートバイにはねられる、などの暗い面が強調されている。田壮壮監督らしい映画だ。

恵介
★★★☆☆
「呉清源 極みの棋譜」(THE GO MASTER)
2006年中国映画、エスピーオー配給、1時間47分、11月17日公開
監督:田壮壮
主演:チャン・チェン/柄本明/シルビア・チャン
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