「これはほとんど報道されていない事件です」赤江珠緒と注釈を入れてから、リポーターの井口成人の報告が始まった。
「みなさん、鹿児島で起きた志布志事件を覚えてますか。今度はそこから600キロ離れた京都の山村で同じような構図の再審請求事件が起こっております」
17票差。昨年2月に行われた京都府南丹市長選の結果だ。国会から小泉チルドレンが応援に駆けつけた中川圭一氏が、対立候補に17票という僅差で勝ち抜けた。国政選挙並みの激戦。
対立候補の背後には自民党の“裏ボス”だった野中広務がいた。
「ターゲットは志布志事件と同じように60~70代のお年寄りでした。この人たちは去年公職選挙法で12人が有罪になりました。・・・しかし彼らは立ち上がったのです。私たちはやっていない、えん罪だと」
「この町で商売ができないようにしてやる!」「座ったとたんにメガネはずせ、罪人あつかいや」。逮捕された住民は、警察のあの手この手を駆使した取り調べで自白を強制されたという。
「早く家に帰して欲しい一心で認めてしまった」
赤江珠緒は「住民は何が何やら分からなかったわけですね」と理解を示した。
容疑は選挙の6カ月前、料理旅館で行われた懇親会で、票の取りまとめを巡り1人約1万円相当の酒食の提供があった――
お年寄りはそれぞれ5000円の会費を払っていた。何人かは家計簿には支出としてしっかり記述されていた。その証拠も「後で勝手に書いたもの」と断定された。
彼らの率直な声を番組で見ていて、うそをいっているとは全く思えない。
警察があらかじめこの小さな懇親会をマークしていた。12人の捜査員が客を装い、会場に張り付いて監視していた。エジキとして狙われていたのだ。
自白を「強制された」住民は、警察のワナにはまってしまう。
――切り違え尋問。「みんなが認めているから、お前も素直に認めたらどうだ。お前だけ認めないのでは主張は通らない」
この禁じ手に乗せられて住民は次々と自白に追い込まれてしまった。
「私たちはやってません」。こんな違法な捜査に住民は怒りの声を上げると同時に、9月に再審を請求、10月には国家賠償請求訴訟。えん罪だとアピールした。
「切り違え尋問はよく少年事件によくあるケースですが、みんなが認めたぞといわれると心理的に追い込まれるんですね」(鳥越俊太郎)
「選挙のライバルが警察とずぶずぶの関係で狙われていたんでしょう」(室井佑月)
「政治的な対立でこうなったと考える人もいます」(井口成人)
地方における選挙で発展途上国並みの"何でもあり"が横行している。