今から12年前、ソウルの5階建てデパート三豊が崩壊して500人以上の犠牲者を出した事件はまだ記憶に残っている。楽しいショッピングの最中に突然襲った悲劇に胸を痛めた。その事故で亡くなった若い女性とその婚約者というフィクショナルな設定の物語である。
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映画の冒頭は海岸線の素晴らしい景色が見渡せるウイ島の砂丘。TVクルーを指揮しているのは旅番組の女性ディレクター、ミンジュ(キム・ジス)。ロケから戻ったミンジュは婚約者で司法研修生、ヒョヌ(ユ・ジテ)とのデート。検事へ志望を変更したヒョヌは忙しい日々を過ごしている。新居の家具をミンジュと見に行く約束にも、会議で遅くなるからデパート地下の喫茶店で待って欲しいとヒョヌ。6時の約束が少し遅れて、ヒョヌがデパート前に来た時に突然建物が崩壊する。
それから10年。婚約者を殺したのは自分だと自責の念に駆られたヒョヌは冷徹な検事となり心も閉じたままだ。或る日、ミンジュの年老いた父親が尋ねて来て、「ヒョヌとミンジュの新婚旅行」と題した革表紙のノートを置いて行く。そこに詳細に記されているのは、ミンジュが計画した一週間の新婚旅行の旅程とミンジュの思いだった。ノートに従って美しい土地を、一人巡り歩くヒョヌ。西南部のモッポから砂丘のウイ島、古都キョンジュと、ミンジュの素晴らしい解説に導かれた旅をする彼の前に、同じコースを歩く若い女性が見え隠れする。
崩壊したデパートで助けを待つミンジュ。9.11で崩壊現場に閉じ込められた消防士たちを描く「ワールド・トレード・センター」に比べればチャチなセットだ。そのセットに反して、ヒョヌが一人で巡る韓国のローカルな景色の素晴らしさ。鳥取の砂丘のようなウイ島、奥入瀬のような山林を流れる渓流、今までの韓国映画には紹介されていない景観が次から次へと映し出される。その同じルートを行く若い女性、セジン(オム・ジウォン)は何者だ?映画に推理の要素が加わって来る。
主役ヒョヌのユ・ジテは「春の日は過ぎゆく」(01)で演じた、年上の女性に憧れるひ弱な青年が印象に残っている。この役でも冷たい検事の仮面の下の、自責の念に苦しむ姿を好演している。相手役ミンジュのキム・ジスはTVドラマ育ちの美貌の35歳。監督キム・デスンはデビュー作「バンジージャンプする」で新人監督賞などを受け、この作品は3作目。ポイントをしっかり押さえる着実な演出だ。韓国映画界もチャラチャラした作品からガラリと様変わりして、見応えのある映画を送り出し始めている。
2006年韓国映画、ソニー・ピクチャーズ配給、1時間48分、2007年11月3日公開
監督:キム・デスン
出演:ユ・ジテ / キム・ジス / オム・ジウォン
公式サイト:http://sonypictures.jp/movies/tracesoflove/