07年6月に公開された「憑神」と同じく。浅田次郎の小説を映画化した「オリヲン座からの招待状」。京都の小さな映画館の館主とその妻を巡る物語。イタリア映画の「ニュー・シネマ・パラダイス」やアメリカ映画「ラスト・ショウ」を思わせるストーリーだ。
(C)2007「オリヲン座からの招待状」製作委員会
映画人口が12億人を数えた昭和32年から、TVの影響で徐々に映画が斜陽になりどん底になった30年代終わりを経て、現代の映画館閉館までを描く。冒頭は2代目館主の留吉(原田芳雄)が、寄る年波と妻(中原ひとみ)の病気に勝てず閉館することにしたオリヲン座への招待状を、昔のお客さんたち一人一人に出すところから始まる。
転じて画面は昭和32年の映画全盛期、天涯孤独の若い留吉(加瀬亮)が大津から京都へ行き倒れ同然でやって来る。オデヲン座の館主、松蔵(宇崎竜童)とその妻トヨ(宮沢りえ)は、映画好きの留吉の請うままに雑用係として雇ってやる。しかし松蔵は肺癌で倒れ、残された二人は松蔵の遺志を継ぎオリヲン座を守ろうとする。映画館の周りの下衆はそうは見ない。館主死亡につけ込み美人のおかみさんに言い寄る若者、と留吉を冷たい目で見る。そうでなくてもTVに押された映画の斜陽と相俟って、オリヲン座は世間からも見放され苦しい時代を迎える。
留吉が行き倒れ同然で見る映画は「二十四の瞳」と「君の名は」「幕末太陽伝」。留吉が閉館の際に上映するのは、先代の松蔵が絶対に再上映したいと願っていた「無法松の一生」。何れも日本映画の名作だ。苦しい時は売店の売れ残りのアンパンを朝昼晩と三回食べ、他の小屋のようにポルノ上映も考えたが、子供に見せられる映画だけをと頑張る二人。
脚本のいながききよたかが拙いのか、監督の三枝健起が未熟なのか、主人公に感情移入できない。客が全く来ない苦しい時代をどうやって切り抜けたか?松蔵の死んだのを良いことに男女の関係になったと、二人に浴びせられた罵詈雑言をどう凌いだか?今にも死にそうなトヨを負ぶって、何故病院から遥か遠い劇場まで駆けるのか?救急車と言わないまでもタクシーで運ぶだろう。お別れ上映の館内のホールには祐次(田口トモロヲ)と良枝(樋口可南子)夫妻の姿しかないのに、客席はどういう訳か満員なのも不自然だ。
そもそもオリヲン座の周りで子供時代に遊んでいたこの夫妻、紆余曲折を経て一緒になるが破局を迎えようとする人生にも、少しは焦点を当てるべきだった。どうもそれぞれの展開にケジメをつけていないのが気になる。役者もストーリーも悲しい方向へ向かうのだが、どうしても泣けない。ストーリーテリングの浅田の原作でも、料理する監督や脚本家が違うとこうも駄目か。主演の宮沢りえの「父と暮らせば」で見せたような感受性の強い個性を引き出していない。比べてみれば「憑神」の監督、降旗康男の偉大さが分かる。
2007年日本映画、東映配給、2007年11月3日公開
監督:三枝健起
出演:宮沢りえ / 加瀬亮 / 原田芳雄
公式サイト:http://www.orionza-movie.jp/